しかし、お祭り気分もここまでだった。これ以上時間をかけ過ぎると、リノアがいつまでアルティミシアを押さえきれるか分からない。
出番を悟ったエルオーネは、リノアの前に進み出た。
「リノア、用意はいい？」
「ええ。大丈夫よ、お姉ちゃん。」
エルオーネは一つ深呼吸すると目を閉じた。リノアも同じように目を閉じる。
俺達は待った。これから起きるだろう、正体のつかめない何かを。
ずいぶんと長い時間が過ぎたような気がした。しかし実際は、数分と経っていなかったのかもしれない。
唐突に、エルオーネとリノアの２人は崩れるようにその場に座り込んだ。
「リノア！エルオーネ！」
駆け寄ろうとした俺を、親父が止めた。親父は荒い呼吸のエルオーネの傍らに跪いた。
「うまくいったのか、エル？」
「うん‥‥多分ね。ずいぶんと時間をさかのぼったみたい。過去のイデア、アデル、そして歴代の魔女から魔女へとずっと。‥‥さすがに疲れちゃった。リノアは大丈夫？」
エルオーネと同様に息を切らしているリノアは、弱々しく頷いた。
「子供の頃の私の中にも入ったわ。なんだか不思議な感じ。」
「アルティミシアは？」
「これ以上の過去には行けそうもなくなった時、向こうから私達を切り離したの。だからきっと、彼女の目的は果たせたんじゃないかな。」
エルオーネの言葉にリノアも頷いた。
「もうすぐこの時代にも、時間圧縮の影響が現れると思う。」
「そっか。２人ともお疲れさん。」
親父は２人に手を貸して立ち上がらせた。ねぎらうようにポンポンと肩を叩いたあと、俺達に向き直った。
「さてと、聞いてのとおりあまり時間はねえみたいだから一言だけ言うぞ。」
一人一人と目を合わせたあと、親父はニヤッと笑った。
「これが終わったら俺んちで大宴会だーっ！！」
その言葉に思わず脱力しそうになったが、ゼル達といえば親父とピッタリの呼吸で、「オーッ！」と鬨の声を上げた。
そして次の瞬間――俺達は真っ逆様に落下を始めた。
真っ暗な闇の中を下へ下へ。気付くと今度は上へ上へと上昇している。激しい上下を繰り返すうち、上へ昇っているのか、下へ落ちているのかも分からなくなる。目に見えるのは真っ暗な闇だけ。
黒の世界。すべてを覆い尽くす黒。闇の黒。夜の色。沈みゆく漆黒。
黒の世界から唐突に抜け出し、赤の世界へと投げ出される。猛り狂う赤。炎の赤。マグマの色。溶け入るような真紅。
次に広がるのは青の世界。揺らめき流れる青。水の青。海の色。透きとおるような群青。
そして緑の世界が沸き上がる。そよぎ囁く緑。葉の緑。草原の色。柔らかく包み込む深緑。
やがて色は消え、流れも止まった。そこには何もない。透明の世界。何もかもがそこに溶け込んでいく世界。消えては二度と現れない。
だが無のようでいて、そこにすべてがある。見えないけれど感じる世界。
引き寄せられる。吸い込まれる。
一つになれと。溶けてしまえと――
スコール！
声が聞こえる。遥か遠くから。いや、すぐ近くからのようにも感じられる。
――こっちに来て。止まらないで。もうすぐだから。
差し出された見えない手を取る。次の瞬間、少し乱暴とも思える強い力にぐいっと引っ張られた。同時に、凍り付きそうだった心は急速に暖かさを取り戻した。
手が離され、ふわりと地に落ちた。
無意識の内に固く閉じられていた瞼をそっと開く。
そして、自分が横たわっていることに気付いた。体の下が妙に冷たく固い。これは‥‥氷？氷の上にいるのか？
慌てて飛び起き、辺りを見回す。下は氷ではなく、石の床だった。
ここはどこだ？時間圧縮が始まって、それで‥‥一体どうなったんだ？
「あ、いたいた！こっちにいたよ〜！」
石の柱の影からセルフィが顔を出した。その後ろにゼルの姿も見える。
立ち上がり、２人の元へと駆け寄った。
「セルフィ！ゼル！俺達はどうなったんだ？他のみんなは！？ここは一体――」
「落ち着いてスコール、って言ってもムリか〜。あたし達もパニックのかなり一歩手前だしね〜。」
「ここがどこかってのはともかく、お前以外はもう全員集まってるぜ。みんなでお前のことを探してたんだ。」
セルフィとゼルのあとについて合流場所へと急いだ。薄暗いせいで周りの様子はよく分からなかったが、何かの建物の中にいるのは間違いない。それも古い石造りで、内部はかなり大きく広い。
らせん階段の前にキスティスがいた。俺達がそこに着くと同時に近くの扉が開き、リノアとアーヴァインが入って来た。
「よかった、これで全員無事ね。」
キスティスは揃った顔を見て、ホッとしたように言った。
「心配かけてすまない。それで、ここはどこなんだ？俺達は一体どうなったんだ？」
「私達、着いたみたい。未来の世界に。アルティミシアの住む城に。」
リノアは答えた。
「ここが未来の世界‥‥アルティミシアの城‥‥？」
「遠い遠い未来の魔女だっていうから、エスタを1000倍にしたみたいなキテレツな場所にいるかと思ってたんだけど、まさかこんな古めかしい城に住んでるとは思わなかったぜ。」
ゼルは少々拍子抜けといった様子で辺りに目をやった。確かに、それには同感だ。
「ここにアルティミシアがいるのは確かなのか？」
「ええ、いるわ。なんとなくだけど感じるの。二度も彼女を受け入れたから気配で分かる。」
リノアは確信を込めて頷いた。
「そうか‥‥。それじゃ、やっぱりあれはリノアだったんだな。」
「え？」
「リノアの声を聞いたんだ。こっちへ来いって。この時代のこの場所へ俺を導いてくれただろう？」
すると、キスティスも頷いた。
「リノアの声なら私も聞いたわ。それから何かの強い力に引っ張られるようにして、ここまで来たような気がする。」
「それ、僕も同じだよ〜。どこだか得体の知れない場所で、自分ていう存在が消えてなくなりそうな気持ちになった時、そっちじゃないこっちだ、っていうリノアの声に引き戻されたよ。」
同調してアーヴァインも言った。見ればゼルとセルフィもしきりに頷いている。
当のリノアは不思議そうに首を傾げた。
「本当に？‥‥そういえば、みんなと離ればなれになりそうな気がして、それで必死に呼びかけたような気はする。だけど、夢かと思ってた。」
どうやらリノアも無意識のことだったようだ。これも彼女の魔女としての力なのだろうか。
２５．魔女の城にて
城の内部は思った以上に広く、複雑に入り組んでいた。アルティミシアの元へ辿り着くには、その気配を感じ取ることの出来るリノアの感覚だけが頼りだった。
俺達はリノアの水先案内で城の中を進んだ。建物の中だというのに、行く先々ではモンスターと遭遇した。
「モンスターを飼ってらっしゃるとは、さすが未来の魔女さんだね〜。」
頭上から襲いかかって来た翼のあるモンスターを、アーヴァインは撃ち落とした。
「僕達が来るって最初から分かってて、モンスターを放したのかな。」
「どうかしら。‥‥見て！」
キスティスが指差した方を見る。通路を抜けた先に中庭のような広い空間があった。そこに白い服を着た人らしき姿が倒れているのが見えた。
「おい、しっかりしろ！」
駆け寄ってみたが、その白服の人物はすでに事切れていた。
「これは‥‥」
倒れているのは一人だけではなかった。中庭のあちこちに幾重にも折り重なるようにして、同じような服装の人々が倒れている。
「見ろよ‥‥こいつらの服に付いてるエンブレム。ガーデンのものと同じだぜ。」
他に生存者がいないかを確かめていたゼルが言った。
「それじゃもしかしてこの人達、この時代のＳｅｅＤってこと〜？」
セルフィは周りを見回した。
「おそらくね。でもこれだけのＳｅｅＤがみんなやられたなんて‥‥。これもアルティミシアの仕業なの？」
キスティスは眉間に深い皺を寄せた。
未来の世界とはいえ、自分達と同じＳｅｅＤが無惨に倒された姿に、彼らは少なからずショックを受けていた。
「みんな、こっちに来て。」
リノアの呼ぶ声がした。中庭から続く両開きの扉の前に立ち、中を見ている。
扉の奥は広々とした造りの礼拝堂になっていた。その祭壇の前に１体の巨大なモンスターが横たわり、そしてその周りにも数人のＳｅｅＤ達が力尽きて倒れていた。
「多分、彼らはこのモンスターと戦ったのね。」
「そして相打ち、か‥‥」
ＳｅｅＤ達が文字通り束になってかかってようやく倒したモンスター。その力はどれほど凄まじいものだったのだろう。そして、そのモンスターを操っていたのは他でもないアルティミシアなのだ。
そんな相手に本当に勝てるのか。振り払おうとしても、どうしてもそんな疑問と怖れが沸き上がってくる。
「怖いな‥‥」
「うん、怖いね‥‥」
思わず呟きとなって漏れ出てしまった本心に、リノアが応えた。
「怖いけど、引き返したいとは思わない。前へ進んで、未来の魔女との決着をつけて、そして私達の時代へ帰る。約束したよね。スコール達の平穏な毎日を取り戻して見せるって。」
俺の視線を受け止めて、リノアは微笑んで見せた。
「怖れを否定する必要はないわ。それを認めさえすれば、乗り越えることは出来る。目を逸らさなければ、決して負けることはない。」
キスティスはＳｅｅＤ達の亡骸に誓うように言った。
「僕達にどれだけの力があるかなんて、そんなの分からない。だけど、ここまで来たらやれるだけのことをやってみるまでさ。」
アーヴァインは決意を固めるように帽子を被りなおした。
「俺達は魔女に完膚無きまでに叩きのめされるかもしれない。勝ち目のない戦いを挑もうとしてるのかもしれない。だけどよ、どんな勝負にだって絶対なんてのはないんだ。」
ゼルは手のひらに拳を打ち合わせた。
「当たって砕けろ〜！ってね。ホントに砕けちゃったら困るけど、そう簡単にやられるつもりはないよ〜。だってあたし達は１人じゃないでしょ？みんながいるもの！」
セルフィは彼女の得意武器のヌンチャクを、グッと両手で握りしめた。
そうだ。俺達は１人じゃない。無力でもない。怖れを抱いていても、心は決して弱くない。
俺の中から、恐怖心が引き潮のように引いていった。同時に、今この場に立っている自分がとても幸福な人間に思えた。
「ありがとう。あんた達に出逢えた幸運に、心から感謝したい。」
あの日の朝、ほんの２、３日のつもりでウィンヒルを出発したこの旅は、俺にかけがえのない大切なものを与えてくれた。
ふと気付くと、みんながポカンとした様子で俺を見つめていた。
「‥‥うわ〜、なんだかびっくりだね。スコールにそんなこと言われるなんて〜。」
「うんうん。その言葉を聞けただけでも、ここまで来た甲斐があったって気がするよ〜。」
「いつになく素直なスコールってのもちょっと不気味だけどな。」
「小さい頃はとっても素直な子だったってお姉ちゃんが言ってたけれど、それを少し垣間見た気がするわね。」
「‥‥」
もう、どうコメントしていいのやら分からない。
俺の隣でリノアがクスクスと笑っていた。
「行こう、スコール。」
俺は頷いて歩き出した。
先へ進もう。
この仲間達と、再び自分のいるべき世界へ帰るために。
２６．アルティミシア
俺達は閉じられた両開きの大きな扉の前に立っていた。この扉の向こうに、アルティミシアがいる。俺達を翻弄してきた未来の魔女が。
俺とリノアは、一緒にその扉を開いた。
大きな柱が幾本も立ち並ぶ広間。その広間の中央で、背を向けて立ち尽くす人物がいた。
初めて見る。おそらくこれが、アルティミシア。
ゆっくりと振り向いたアルティミシアは、物憂げな視線を俺達に投げかけた。
先入観のせいか、実物のアルティミシアは意外なほどに若く感じられた。歳の頃はエルオーネと同じくらいか、もう少し若いかもしれない。
だが、アルティミシアの姿を見て、俺がまず最初に感じたのは既視感だった。以前どこかで、彼女を見たことがある。
そんなはずはないと頭では分かっていても、アルティミシアの姿に見覚えがあるという記憶だけは否定しようがなかった。
「スコール？」
気付かないうちに足が止まっていた俺に、リノアが声をかけてきた。
「ああ、すまない。行こう。」
今はあれこれ思い悩んでいる時じゃない。迷いを振り払い、先にアルティミシアと対峙しているゼル達の元に合流した。
そしてここにも、先程中庭で見たものと同じような光景が広がっていた。
床に倒れたいくつものＳｅｅＤ達の亡骸。そのＳｅｅＤ達と死闘を繰り広げたであろうアルティミシアもまた、無傷という訳にはいかなったようだ。
傷付き、疲弊し、そして‥‥悲しんでいるように見えるのは気のせいだろうか。
「‥‥来たか。」
「おうよ！来たぜ！俺達が来ると分かってたんなら、俺達の用件も分かってるってことだなよ！」
「時間圧縮なんてとんでもないことしてくれちゃって〜！もう容赦してあげないんだからね！あたし達ものっすごく怒ってるんだから〜！」
先手必勝とばかりにゼルが拳を握り固めて飛びかかり、ヌンチャクを振り回したセルフィがそのあとに続いた。
しかし、ゼルの拳が届くか届かないかの刹那、アルティミシアの姿が消え失せた。
「！？」
空振りに終わったゼルとセルフィは、なんとか態勢を立て直して着地した。残る俺達は背中合わせに集まり、周囲にすばやく目を走らせた。
「ＳｅｅＤ‥‥ＳｅｅＤ。最後まで私に刃向かうのは、やはりお前達なのだな。」
アルティミシアは柱の影から姿を現した。
「私の元へ乗り込んで来るその度胸は誉めてやろう。だが、よもや自分達の時代へ帰れるとは思っていないだろうな。」
「もちろん帰るさ。あんたのせいで歪められつつある時間を元に戻してからな。」
俺はアルティミシアの目を真正面から見据えた。
隣にいたリノアが一歩前に進み出た。
「一つだけ教えて。あなたはなぜこんなことをするの？こんなことに、なんの意味があるというの？」
リノアの問いかけは真剣味を帯びていた。
アルティミシアはリノアを見つめた。その様子を見て、俺は不思議な感覚を覚えた。
リノアを見るアルティミシアの目には、長い間離ればなれになっていた肉親と再会したような、優しさと懐かしさが滲んでいるように思えた。
「分からないか？‥‥いや、お前にもきっと分かっているはずだ。」
「‥‥え？」
「私はすべての魔女の永遠の願いを叶えようとしている。ただ、それだけだ。」
「すべての魔女の、永遠の願い‥‥」
繰り返し呟いたリノアは、やがてハッとしたように目を見開いた。
「どういうことなんだ、リノア？アルティミシアの言っている意味が分かるのか。」
「え、ええ‥‥。でも、そんな‥‥どうやって。」
俺の問いかけにぎこちなく頷いたリノアだが、その表情は戸惑いに満ちていた。
アルティミシアの目からスッと光が消え、暗く鈍い輝きを放ち始めた。
「私の本当の戦いは、まだこれからだ。邪魔をするな、ＳｅｅＤ。」
「本当の、戦い‥‥？」
「もう、お前達の相手をしている暇はない。」
アルティミシアは片手をゆっくりと天に向かってかざした。その先に、黒い霧のようなものが沸き始めた。
「お前達の相手はこいつだ。フェンリル‥‥遊んでやれ。」
感情のない表情だけの微笑みを残し、アルティミシアは空間に溶け入るようにしてその場から消えた。
警戒し身構える俺達の前で、黒い霧はさらに膨れ上がり、やがてその霧の中から巨大な獣が滲み出るようにして現れた。
黒く長い毛並みの狼に似た四肢の獣。淡い紫紺の光を身にまとい、体と同じ長さほどもある長い尾が、そこだけ別の生き物のように蠢いている。
「おっとと。いきなりそう来るワケね〜。」
驚きのあまり声も出ない俺とリノアの横で、やけにのんびりした口調でセルフィが言った。
「先越されちゃったみたいだな〜。こっちが二番煎じって感じでちょっと悔しいね。」
アーヴァインは残念無念といった様子で、ふうっとオーバーなため息をついた。
「それじゃ、こいつのことはあたしとアービンにまかせて、みんなは早くアルティミシアを追いかけて〜。」
「ほらほら、急いで。彼女、まだ何かやるつもりらしいぜ〜。」
セルフィとアーヴァインは俺達に先へ進むよう促した。
「あ、ああ‥‥。でも、たった２人であんな得体の知れないモンスターを相手にするつもりか。」
アルティミシアの行方は気がかりだが、この場に二人だけを残して行けるはずがない。
「心配しないで〜。４対１の勝負なんだから余裕余裕っ。」
「４対１？」
セルフィは自信たっぷりにオーケーサインを出して見せたが、それに対してリノアは困惑げに首を傾げた。
「正確に言えば、あれはモンスターじゃないわ。正しくは自律エネルギー体。一般的な呼び名はＧ.Ｆ.。ガーディアンフォースよ。」
キスティスの説明に、俺は再び驚かされた。
「Ｇ.Ｆ.を‥‥喚び出しただって！？そんなことが可能なのか。Ｇ.Ｆ.は言うなればエネルギーの波動みたいなもので、実体のあるものじゃないだろう？だからこそ人がジャンクション可能なはずだ。」
「スコール、お前ってホント物知りだよな。まあ、あのＬ・Ｌ・レオンハートの息子なら納得って感じだけどよ‥‥っと！やべえっ！」
ゼルの叫び声で俺は振り返った。
アルティミシアの喚び出したＧ.Ｆ.『フェンリル』が吠えた。その咆哮がすべてをなぎ倒す衝撃波となり、俺達にまっすぐ向かって来る。避けられない！
「エリアルブラスト！」
別の方向から放たれた真空波がぶつかり、フェンリルの衝撃波を相殺した。
「こらこら、君の相手はこっちよ〜っ。」
バトントワリングのように、セルフィは器用にヌンチャクを振り回した。その彼女の背後には、鳥が女性の姿へと進化を遂げたかのような、美しい緑色の翼を広げた生命体が宙に浮かんでいた。
「驚いた〜？この子はＧ.Ｆ.『ガルーダ』っていうの。カワイイでしょ〜。」
セルフィは自慢げにガルーダの翼をなでた。
そのセルフィを攻撃目標にしたフェンリルが、彼女に向かって空中を突進する。
「今度はこっちだよ！サンダーストーム！」
フェンリルの頭上から黄金色に光るものが舞い降り、幾筋もの太い電撃の矢を降らせた。素早くそれを避けたフェンリルはセルフィへの攻撃を諦め、警戒するように間合いをとった。
「サンキューっ、アービン。」
「お安い御用さ、セフィ。」
手を振るセルフィに、アーヴァインは軽く帽子のつばを下げて応えた。
そのアーヴァインの背後にも、セルフィのそれとは似て非なる別の生命体の姿があった。金色の輝きを放つそれは巨大な鳥に見えるが、その姿は地上にいるどの種とも違う特異な形をしたものだった。
「こいつはＧ.Ｆ.『ケツァクウァトル』。派手なナリしてるけど、けっこういいヤツなんだよ〜。」
ライフルを肩に担ぎ、アーヴァインはニヤリと笑った。
「一体これは、どういう‥‥」
「ここは二人にまかせて、私達はアルティミシアを追いましょう。さあ、急いで！」
「走れ！」
キスティスとゼルに急かされ、俺とリノアは後ろ髪を引かれる思いで広間を駆け抜けた。
フェンリルがあとを追ってくる気配がしたが、ガルーダとケツァクウァトルがその行く手を阻んだ。
俺達４人は奥の扉から広間の外へと出た。
弾む息を整えながらゼルの顔を見ると、ゼルはちょっとだけ肩をすくめて説明を始めた。
「昨日の夜、俺達４人オダイン博士からオダ研てとこに呼び出されたんだ。『お前達を強くしてやるでおじゃる！』って言われてさ。で、そこで新型のＧ.Ｆ.をジャンクションしてもらったんだ。」
「オダインが‥‥」
「召喚型ガーディアンフォースって言うんだってよ。Ｇ.Ｆ.を実体化して戦わせるなんてすげえよな〜。ヘンなじいさんだけど、やっぱそれなりに天才みたいだな。」
オダインは確かに天才かもしれないが、ヤツが変人であることも確かだ。
「新型Ｇ.Ｆ.をジャンクションしたゼル達に何も害はないのか？副作用は？既存のＧ.Ｆ.にだって、記憶の一部欠落っていう弊害があるんだ。」
俺は不安に思って訊いた。
「Ｇ.Ｆ.による記憶障害のことも聞いたわ。私達が子供の頃のことを覚えていないのは、それが原因だったんですってね。」
キスティスはほんの少しだけ目を伏せた。
「でも安心して。この新型Ｇ.Ｆ.にはそういった副作用はなくなったそうよ。ただその代わり、長時間のジャンクションがまだ出来ないらしいの。」
「ま、どのみちこんなところに長居するつもりはねえし、とっととカタ付けてもとの時代に帰るとしようぜっ。」
「ええ、そうね。でも肝心のアルティミシアを見失ってしまったわ。」
俺達の視線は自然とリノアに集まった。
リノアは少し考える風に目を閉じたあと、頷いた。
「この先に、彼女の存在を感じる。」
「分かった。このまま奥へ進もう。」
俺達は薄暗い廊下を走り出した。