６章・星の願い
神羅本社ビル最上階にある社長室に、ルーファウスと神羅カンパニー最高幹部３人、ハイデッカー、スカーレット、リーブの４人が集まっていた。
ウェポン接近の報がもたらされて以来、ミッドガル神羅軍は全軍を上げてその迎撃準備を進めていた。
しかし、ミッドガルの軍備はジュノンのそれよりやや劣る。彼の地のように街全体が要塞化されている訳でもなく、そのジュノンですらウェポンの襲来ではもう少しで危ういところだった。
今度という今度はウェポンを防ぎきれないのでは、という不安が市民だけでなく兵士達の間にも流れ始めていた。
だが、ルーファウス達は自分達に勝算があると信じていた。彼らには秘密兵器があった。
「奴を仕留める。今度こそ必ずな。」
ルーファウスはいつもの仕種でサラッと髪をかき上げた。
「キャハハハハ！当然よ！社長、まかせて！」
「ガハハハハ！今度という今度は奴の息の根を止めて見せます！」
相変わらず神経を逆なでするような笑い声を交えながら、スカーレットとハイデッカーは同時に言った。
「分かっているだろうとは思うが、ここでウェポンを倒せなければあとがない。スカーレット、魔晄キャノンは間違いなく奴を仕留められるのだろうな？」
「もちろんよ！そうでなかったらこんな計画立てるはずないじゃない！」
「よろしい。リーブ、魔晄炉の出力調整は君の仕事だ。しっかり頼む。」
「はい‥‥」
リーブは不承不承といった様子で頷いた。
「キャハハハ！調整なんてまどろっこしいこ抜きにしていいわよ、リーブ。出力全開で一気にガーッと行けばいいのよ！」
「何を言ってるんだ。そんなことをしたらオーバーロードで魔晄炉全体が吹き飛んでしまう。社長、調整の方は私にお任せ下さい。」
リーブは暴走気味のスカーレットに主導権を握られないよう、今度はきっぱりとした口調で言った。
「フンッ、ホントに面白味のない男ね。でも、忘れないでよね。ミッドガルの魔晄炉の力でエネルギー砲弾を飛ばす、っていうアイデアを出したのは私なんだからね！」
「言われなくても分かっている。魔晄キャノン‥‥これが最後の手段だ。」
「ちょっとちょっと、リーブも社長もあれのことを魔晄キャノンだなんて、そんな取って付けたような名前で呼ばないでよね！この新兵器の名前は――」
「シスター・レイ？なんだそりゃ？」
バレットはケット・シーに聞き返した。
「ジュノンにあったでっかい大砲のこと覚えてますか？あれをルーファウス達はミッドガルに運んで取り付けたんです。それが魔晄キャノン‥‥スカーレットが付けた名前はシスター・レイやそうですわ。」
「運んだ！？あんなどでかい物をか？」
「やることのスケールだけは大きいよね、神羅ってさ。」
呆れ口調でレッドXIIIは言った。
「そうか。ロケット村に向かう前にジュノンを空から見た時のあの物足りなさは、キャノン砲がなくなってたからなんだわ。」
「あんな大きな物がなくなってると、かえって現実味がわかなくて気が付かないものなんだね。」
納得して頷くティファに、エアリスは苦笑して言った。
「ルーファウスはそれを使って、目の前に迫っているウェポンを木っ端微塵に吹っ飛ばそうとしてるんです。ミッドガルに集まる魔晄の力を結集して、最大級のエネルギー砲を打ち込むつもりなんですわ。」
「確かにもの凄い威力の攻撃になりそうだな。だけど、相手は星が生み出したモンスターだ。一筋縄じゃいかないぞ。」
「ま、せいぜい奴らのお手並みを拝見させてもらうとするかあ？」
シドがのんきに言うと、バレットはダンッと足を踏み鳴らした。
「無責任なこと言ってんじゃねえよ！おい、ケット・シー！そのシスターなんたらってので本当にウェポンを倒せるのかよ！」
「そうですなあ。まあ‥‥多分。」
「多分てのはなんだよ！ミッドガルにはマリンがいるんだぞ！」
「その点なら大丈夫ですわ。マリンちゃんとエアリスさんのお母さんにはすでにミッドガルを出て、近郊のカームの町に移ってもろてます。」
「へ？なんだ、そうか。それならミッドガルがウェポンに踏みつぶされようと俺の知ったこっちゃねえな。」
バレットはサバサバした様子で、どっかと椅子に座り込んだ。
「‥‥バレットさん、それどういう意味です？ミッドガルに住む人達の命なんて、どうなってもええってことですか？」
ケット・シーの声は悲しげだった。
「バレットさんが神羅を嫌ってることは重々承知してます。同じように神羅の創ったミッドガルの街も嫌いなんやろな。でも、そやからてあの街に住む人達が死のうが生きようがどうでもええみたいな、そんな悲しいこと言わんといて下さい。みんなあの街で、自分の人生を毎日一生懸命生きてるんです。ミッドガルの人達にかて、生きる権利はあるんや‥‥」
バレットは何か言い返そうとするように椅子から立ち上がりかけたが、結局何も言わずにそのまま腰を下ろした。
「‥‥ケット・シーはミッドガルが好きなのね。」
ティファは優しい声で言った。
「そうですなあ‥‥。あそこはボクが創った街でもある訳やしなあ。星の命を吸って発展を遂げた街。それだけで十分罪深い街やけど、ボクにはやっぱりあの街を見捨てることは出来まへんのや。」
ケット・シーは照れくさそうにポリポリと頭を掻いた。
「あんたの気持ちはよく分かったよ、ケット・シー。いずれにしろ、ウェポンが迫っているのに見て見ぬ振りは出来ないさ。」
クラウドはケット・シーの小さな背をポンと叩いた。
「あと数分でミッドガル上空に到達するぜ。そろそろ進行中のバケモンの姿が見えてくるかも――」
「いた！あれだよ！」
シドの言葉を遮って、レッドXIIIが叫んだ。
風のない凪の海に白波が立っている。その先に海を引き裂くように進む巨大な影が見えた。そして徐々に、水面からその異形の姿を現し始めた。
「まっすぐミッドガルに向かってやがるぜ。どうするんでい、このハイウインドで奴に体当たりってのだけは勘弁しろよ。」
シドは両の拳と拳を打ち合わせて、激突のジェスチャーをして見せた。
「あのモンスターの頑丈さは、ロケット村でイヤというほど味わったわ。飛空艇をぶつけたくらいじゃ倒せないでしょうね。」
ティファは海中を猛進するウェポンを見下ろして言った。
「またあの時のように私達が囮になって、奴をミッドガルから引き離すか？」
「あれもそれなりに命賭けだけどね。」
ヴィンセントの言葉に、ティファは苦笑いして肩をすくめた。
「その前に、まずはシスター・レイの発射を待ってみませんか？もしかしたらうまく倒せるかもしれんのやし、それが失敗したら囮作戦を実行しましょ。」
ケット・シーの提案に従い、飛空艇はエネルギー砲発射の余波から逃れるために高度を上げた。
ミッドガルの魔晄炉すべてがフル稼働を始めた。高められた魔晄の力は巨大なパイプを通り、ミッドガルシティ八番街を埋めつくすように据え付けられた魔晄キャノン、シスター・レイへと注がれていく。
「もうすぐ‥‥もうすぐや。‥‥カウントダウン開始、あと１０秒‥‥５秒‥‥３、２、１！さあ来るで！でえ〜っかいのが！」
ケット・シーの叫び声とほぼ同時に、超巨大キャノン砲シスター・レイは発射された。
「見て！ウェポンが‥‥！」
ティファが指さした。
シスター・レイの発射に呼応するように、ウェポンも攻撃を開始した。ウェポンが吐き出したレーザー光線がシスター・レイのエネルギー弾とまともにぶつかった。
それによって生じた爆発の激しさに、誰もが目をかばった。そして次に視線を戻した時には、勝敗は決まっていた。
シスター・レイのエネルギー弾がウェポンのレーザー光線を弾き飛ばし、そのまままっすぐウェポンの体を貫いた。
地響きと砂塵を巻き上げながら、ウェポンはその場に倒れた。
「キャハハハハハハ！キャハ！やったわ！見てよ、社長！シスター・レイの威力を！ウェポンなんてイチコロよ〜！」
その様子を双眼鏡で見ていたスカーレットは、勝ち誇った笑い声を響かせた。
「ふむ。大したものだ。よくやった。」
ルーファウスは満足げな笑みを口の端に浮かべた。
「ガハハハハ！神羅の力の前には古代のモンスターなどひとたまりもないですな！」
「キャハハハ！当ったり前でしょ！私達神羅にケンカ売ったこと自体、頭が化石な証拠よ！では社長、これからあのバカモンスターの死骸を回収に行って来るわ。天然マテリアの洞窟に長い間浸かっていたんだから、きっと死骸も何かの武器開発の役に立つはずよ。」
「ガハハハ！どれどれ、古代のモンスター様のお顔を拝みに行くか！」
騒がしい２人組が社長室から出て行き、部屋にはルーファウスだけが残った。
ルーファウスはソファにゆったりと座り、シャンパンの注がれたグラスを掲げた。
「神羅カンパニーの栄光に乾杯。」
ルーファウスはこの上なく上機嫌にそれを飲み干した。
一方、クラウド達は倒れたウェポンの上空を旋回していた。ウェポンは微動だにしなかった。
「やっつけた‥‥の？」
食い入るようにウェポンを見つめていたティファは、誰ともなしに訊いた。
「そうみたいだな。今度ばかりはルーファウス達の手柄だな。」
クラウドは同じようにウェポンを見下ろしながら言った。
「フン、癪にさわるが今回は仕方ねえな。」
バレットはおもしろくなさそうに鼻を鳴らした。
「よかった‥‥ホンマによかった。」
「よかったね、ケット・シー。」
エアリスは、小さな体全身で息をつくケット・シーに笑いかけた。
「はい、ありがとうございます。ボク、ホンマに嬉し‥‥ん？んん！？」
笑みを返そうとしたケット・シーは、そのまま硬直した。
「どうしたの？」
「ちょ、ちょっと待って下さい。ボクにも何がなんやら‥‥。ほ、宝条！？」
「宝条？宝条博士がどうしたの？」
仲間達がケット・シーの周りに集まってきた。皆、ケット・シーの顔を見つめ、次の言葉を待った。
「‥‥なんだと！？何を言っているんだ。私はそんな命令は出してないぞ！そもそも今回の件は都市開発部門の管轄だ。科学部門に一切関わりはない。宝条の奴、一体何を考えている！」
ケット・シーが叫んでいる相手は、目の前の仲間達ではない。向こう側ではかなり混乱しているようだ。
「ケット・シー、落ち着け。俺達にも分かるように話してくれ。」
クラウドに促され、ケット・シーは取り乱したままの声で説明した。
「あ、ああ、宝条がシスター・レイの制御室を占拠したんだ。勝手に操作を始めて、安全装置解除のフル出力で全魔晄炉から魔晄エネルギーをシスター・レイへ送り込んでいる！」
「どうしてそんなことするの？もうウェポンは倒したのに。」
エアリスの問いに、ケット・シーは首を振った。
「私にも分からない。‥‥いいから早く処置を急げ！エマージェンシーカットだ！‥‥あいつめ、どういうつもりなんだ。このままでは‥‥」
「どうなるの？」
「過負荷に耐えきれないシスター・レイはオーバーロードを起こしてしまう。そうなればシスター・レイだけでなく、ミッドガルの全魔晄炉を巻き込んだ大爆発が起きる。ミッドガルシティはおろか、近隣の街まで巻き込む大惨事だ‥‥」
「そんな‥‥。なんとか止めることは出来ないの？リーブさん。」
ティファは言った。
「ここからでは無理だ。直接制御室から操作しないと‥‥え？」
「ね、リーブさんて？」
ティファの何気ない呼びかけに気付いて、エアリスは不思議そうに尋ねた。
「ケット・シーの本名みたいよ。そうよね？神羅カンパニー都市開発部門統括のリーブさん。」
「‥‥あっ。いや、その、私は‥‥いや、ボクは、ですね‥‥」
ケット・シーは明らかにうろたえている。
「なんで分かったんだい、ティファ？ケット・シーの正体が。」
レッドXIIIはティファを見上げた。
「神羅カンパニーのパンフレットに載ってたのよ。プレジデント神羅の下に５人の最高幹部がいるんだけど、それがハイデッカー、スカーレット、宝条、パルマー、そしてリーブ。ケット・シーって神羅カンパニーの内情にかなり詳しいから、もしかするとその５人の中の１人、まだ会ったことのないリーブ氏がケット・シーの本当の姿なんじゃないかなって前々から思ってたの。確かめる機会を待ってたんだけど、見事に的中したみたいね。」
再び全員がケット・シーに注目した。
ケット・シーはどう取り繕おうかとあたふたしていたが、やがてあきらめたように息をついた。
「‥‥もう、今さら隠しても仕方ありまへんな。そうです。ボクのホンマの名前はスタンレー・リーブ、神羅カンパニー都市開発部門統括です。でもティファさん、神羅カンパニーのパンフレットなんていつの間に読んだんです？」
「前に神羅本社ビルに忍び込んだ時にね。それよりリーブさん、宝条のことはどうするつもりなの？このままじゃ大変なことになるんでしょう？」
「そうだぜ！さっき近隣の街まで巻き込む大爆発になるって言ってたよな！それじゃ隣町のカームにいるマリン達も危ねえってことじゃねえか！なんとかしろよ、おい！」
バレットはケット・シーをつかみ上げて乱暴に揺さぶった。
「そんなこと言われんかてすでにやってます！宝条のアホを取り押さえるために神羅兵を向かわせて‥‥何っ！？」
「今度はどうしたんだ？」
クラウドは訊いたが、ケット・シーはすぐには答えない。向こう側では懸命に情報収集をしているらしい。
「八番街全域に突如としてモンスターが現れました。どうやら宝条が放したらしいんですわ。人を寄せ付けんようにするために。あいつ、この時を待ってたんや。シスター・レイが起動するその時を。」
ケット・シーは苦々しげに言った。
「宝条が占拠している制御室まで行けば、シスター・レイの爆発を防ぐことが出来るんだな？」
「はい。ここの端末からでは回線が切断されていて手も足も出まへんけど、制御室で直接操作すれば止められます。でも、制御室はシスター・レイの真上にあるんですわ。そこへ行くためには、モンスターの徘徊する八番街を通らんとならんのです。モンスターをちまちま倒してたんでは、制御室へ辿り着く前に時間切れになってしまいますわ。」
「んじゃあ、モンスター共をまたいで通ればいいワケだな。」
シドはさも簡単なことのように言った。
「シドさん、何言うてるんです。そないなことどうやって‥‥」
「おいおい、おめえら自分達が今いる場所がどこだか分かってねえようだな。ここはどこだ？」
「飛空艇‥‥」
「空の上‥‥」
「そか！シド頭いい！」
エアリスはパンと両手を合わせた。
「シド、パラシュートは？」
クラウドの問いに、シドはグッと親指を突き立てて見せた。
「もちろんあるぜ。売るほどな！」
クラウド達は飛空艇の甲板へと出た。床の上にはシドの指示によってクルーが運んで来たパラシュートが人数分積まれていた。
彼らがパラシュートを身につけた頃には、飛空艇は八番街の上空へと達していた。
「これから八番街へ降下する！みんな、準備はいいな！？」
クラウドは仲間達を振り返った。皆、大きく頷く。
「‥‥待って！アタシ、行けない。」
そんな中で突然、ユフィは言った。その唐突な言葉に驚いて、全員の視線が彼女に集まった。
「どうしたっていうんだよ、ユフィ？」
レッドXIIIは鼻頭でユフィの背中を突っついた。
「ゴメン、アタシ‥‥」
ユフィは足元に落としていた視線を上げ、振り返った。その先にはウェポンの遺骸が見える。
「あのバケモノの額には究極のマテリア、アルテマがあるはずなんだ。だからアタシは、それを取りに行かなくちゃならない。」
「究極のマテリア‥‥。ユフィがずっと探していたっていうマテリアのことか。だけど、何も今じゃなくていいんじゃないのか？ウェポンは死んだんだ。マテリアは逃げたりしないさ。」
クラウドの言葉に、ユフィは頑なに首を振った。
「あとじゃダメなんだよ！今、目の前に究極のマテリアがある！それなのに素通りなんて出来ない！絶対に手に入れたいんだ、あのマテリアだけは‥‥」
ユフィの固い決意に全員が黙り込んだ。
エアリスはユフィに歩み寄り、その肩を抱いた。
「よし、行こう、ユフィ。究極のマテリアを取りに、ね？」
「エアリス‥‥」
「お母さんとの約束だもんね。私も手伝うよ。」
「ありがと、エアリス！」
ユフィはエアリスに抱きついた。
「私、ユフィに付き合うね。だから、宝条博士のことはみんなにまかせる。いいよね？」
「ああ、分かった。ユフィの力になってやってくれ。」
クラウドは頷いた。
「しゃーねえな。そんじゃ俺様も姉ちゃん達に付き合うとすっか。二手に別れるなら、俺様がハイウインドに残ってた方が都合がいいだろうからな。」
シドは頭をぽりぽりと掻きながら、エアリス達の方へと歩いて行った。
エアリス、ユフィ、そしてシドを飛空艇に残し、残りの仲間達は八番街へとパラシュート降下した。
殿で飛び降りようとしたクラウドの背に、エアリスは声をかけた。
「クラウド！私の分まで宝条博士のこと蹴っ飛ばしてきてね！」
「まかせろ。エアリスの両親の分もたっぷりとな！」
片手をあげて見せたクラウドは、そのまま鉄柵の向こう側へと身を踊らせた。
６人が無事八番街へ着地したのを見届けてから、飛空艇はミッドガル上空を離脱しウェポンの遺骸へと向かった。
エアリス達は旋回する飛空艇の甲板から、ミッドガルの荒野に倒れたウェポンを見下ろした。
「よーし！そんじゃ、ちょっと降りてって究極のマテリアいただいてくんね！」
「わあってるよ。今飛空艇を着陸させてやっから待ってろ‥‥ってオイ！」
パラシュートを背負い、鉄柵に足をかけたユフィを見てシドは声を上げた。
「別に着陸なんてまどろっこしいことしなくていいって。んじゃ、いってきまーすっ。」
止める間もなく、ユフィは手すりを一蹴りして飛び降りてしまった。
「ったくせっかちなクソガキだぜ‥‥って姉ちゃんもかよっ！」
「もちろん。だって私、ユフィに付き合うって言ったもの。」
同じくパラシュートを装備したエアリスは、すたすたと鉄柵に歩み寄った。
「うわ〜、けっこう高いね。楽しそうっ。」
エアリスはおどけた風にシドに敬礼を送ると、えいやっとばかりに宙に飛び出した。
空中に咲いた二つの傘は、輪を描くようにゆっくりと地上へ降りて行った。
最後に八番街へと降り立ったクラウドは、すぐさま不要になったパラシュートを取り外しにかかった。そばでは先に降りていた仲間達が、押し寄せるモンスターの集団と応戦中だった。
「みんな無事か？」
全員からそれぞれに返事が返ってきた。
「それで、これからどっちへ行きゃいいんだ？」
残ったモンスターに銃弾を浴びせながらバレットは訊いた。
「一旦地下道に潜りましょ。ここからなら、それがシスター・レイへの一番の近道です。モンスターも地下までは入り込んでへんと思いますし。」
ケット・シーの先導で路地裏に入り込んだ一行は、その突き当たりにあるマンホールの蓋をこじ開け、そこから地下道へと続く梯子を降りた。
地下の様子はキャットウォークや梯子、ダクトが縦横無尽に走るさながら立体迷路のような所だった。たちまち迷ってしまいそうなその場所を、ケット・シーは慎重に、しかし出来得る限り急いで道を選びながら進んで行った。
どこをどう通って来たのかも分からないまま、ケット・シーのあとについてダクトを抜けた先は、薄暗いトンネルの中だった。
「ここ‥‥前に見たことがあるわ。」
「ああ。壱番街魔晄炉の爆破ミッションで、逃げる時に通ったトンネルと同じだな。」
クラウドの言葉にティファは頷きかけたが、その時彼らの会話を複雑な表情で見ているケット・シーに気付いた。視線が合ったケット・シーはそれを逸らした。
しばし迷ったティファは、彼のそばへと近付いた。
「‥‥あのね、ケット・シー。壱番街魔晄炉で私達がやったことは、例えどんな理由があろうと決して許されることじゃなかった。神羅に対抗しようとして、でも結局、やっていることは神羅と何も変わりなかった。」
「ティファ！」
バレットは抗議めいた声を上げたが、ティファはそれに悲しげな眼差しを返した。
「罪のない人達を巻き込んで、たくさんの人達を死なせた。これまで神羅がやってきたことと同じだよね。バレットだって分かってるんでしょう？私達は過ちを犯したの。一生消えない過ちを。」
バレットは黙り込み、そして背を向けた。その場は沈黙に満たされた。
「‥‥人は誰でも過ちを犯すものだって、じっちゃんが言ってたよ。過たない人はいない。でも過ちから逃げない限り、償うことは可能だって。」
神妙な面持ちで言ったレッドXIIIは、すぐにおどけたように舌を出した。
「まあ、オイラは人じゃないけどさ、間違いならいっぱいやってきたよ。」
「レッドXIII‥‥」
クラウドは小さく笑って、傍らに座った獣の赤い毛並みをなでた。
「罪は罪を生んでしまうもんなのかもしれまへんなあ。」
ケット・シーは手に持ったメガホンを弄びながら呟いた。
「神羅の罪にティファさん達が罪の上乗せをして、そしてまた神羅がそこに罪を重ねる‥‥ははは、つくづく不毛やなあ。ホンマ、人っちゅうのはアホなもんや。」
「罪はいつか必ず償うことが出来る。そう信じるのでなければ、我々がこうして足掻いている意味がなくなってしまう。」
ヴィンセントは静かに、だが決然として言った。
クラウドは頷き、仲間達の顔を見回した。
「行こう、みんな。今は立ち止まって悔いる時じゃない。俺達に出来ることを、一つずつやっていくしかないんだ。」
今度は全員がそれに頷いた。
「ほな急ぎましょ。まずは宝条のドアホをブッ飛ばすんや！」
メガホンを振り回して勢いよく走り出したケット・シーを先頭に、クラウド達はトンネルの中を駆け抜けた。