「クラウド、もう少しよ。あと一息で本当のあなたを取り戻せる。もう一度５年前のニブルヘイムへ行きましょう。これで最後だわ。」
ティファの言葉にクラウドはためらいなく頷いた。
再び、周囲に炎が巻き起こった。炎のアーチをくぐり抜けて、黒髪のソルジャーが広場に躍り出た。
ソルジャーの青年は燃える家から出て来たザンガンと遭遇し、二言三言何か言葉を交わした。そこへ神羅兵が加わり、ザンガンをその場に残してニブル山へ続く道の方へ駆け出して行った。
そして場面は、魔晄炉内部へと切り変わった。
ジェノバの扉の前では、ティファがセフィロスに追いついていた。
「よくもパパを殺したわね！よくも村のみんなを！許さない！」
弱々しい魔法攻撃で向かってくるティファに対して、セフィロスはブリザガを放った。
強力な冷気魔法の餌食になる寸前のティファを、飛び込んで来た神羅兵がかばうように抱き締めて押し倒した。ブリザガを紙一重で避けると、そのまま一緒になって階段を転がり落ちた。
その彼らを飛び越えて、黒髪のソルジャーが一気に階段を駆け上がった。背負っていた長剣を抜き、セフィロスに斬りかかる。
セフィロスはソルジャーの攻撃を、愛刀で軽く受け止め横に流した。ソルジャーの青年は態勢を立て直し二撃目を打ち込もうとしたが、彼の動きよりセフィロスは遥かに早かった。
凶刃がソルジャーの体に食い込んだ。あまりに激しい一撃に、ソルジャーが階段の下まで吹っ飛んだほどだった。
「ザックスーッ！」
ソルジャーを呼ぶ悲痛な叫び声が上がった。そして叫んだのは、劇場の観客のようにティファとその光景に見入っていたクラウドだった。
「そう‥‥そうよ、セフィロスと一緒に来たソルジャーはザックスだったのよ！でも、クラウドがそれを知ってるってことは、あなたはこの光景を見ていたということなの？」
ティファはクラウドの横顔に問いかけた。
「俺は、見ていた。俺は‥‥ザックスと‥‥」
クラウドの視線は倒れたザックスに注がれたままだった。床の上には見る見るうちに血だまりが広がっていく。
神羅兵は気を失っているティファを横たえると、ザックスの元へ駆け寄った。
「‥‥ド。奴を‥‥セフィ‥‥スを早く‥‥」
ザックスは血に濡れた手で、自分の剣を神羅兵の手に握らせた。神羅兵はそれに頷くと、セフィロスのあとを追ってジェノバの部屋へと入って行った。
セフィロスはジェノバのガラスポッドの前で、肩を小刻みに揺らし薄気味悪く笑っていた。
「尊敬していたのに‥‥憧れていたのに‥‥セフィロス、お前は‥‥！」
その背後に立った神羅兵は怒りに震える声で叫んだ。被っていた兵士用の防護マスクを、引き破るように脱ぎ捨てる。
「そう‥‥だったんだ‥‥」
その時ティファは、すべてを理解した。その神羅兵こそが、クラウドだった。
２人のソルジャーと共にやって来た２人の神羅兵。その一人が、クラウド。彼はずっとそばにいた。ニブル山でも、魔晄炉でも。彼はあの時あの場所に共にいたのだ。
クラウドはザックスの長剣を振り上げ、セフィロスに挑みかかった。セフィロスは避ける気配もなく、突っ込んでくるクラウドをただ見つめていた。
クラウドの体が一瞬にして壁に叩きつけられた。セフィロスが放ったブリザガの魔法だった。すさまじい冷気の衝撃で、全身の感覚が麻痺したようになる。
しかし、防御力のある神羅兵の制服のおかげで致命的なダメージにはならなかった。クラウドはよろけるように立ち上がると、もう一度斬りかかっていった。
セフィロスはその稚拙な攻撃を造作もなくかわし、がら空きの背中に一撃を浴びせた。クラウドはガラスポッドにぶつかるようにして倒れた。
セフィロスは潰れた虫でも見るような目つきで、クラウドを見下ろしていた。
「母さん‥‥俺達の邪魔は誰にもさせないよ。さあ、一緒に星を取り戻そう。母さんのためならなんでもするよ。」
「‥‥あんたの母親だか星の支配者だか知らないが‥‥こんなもののためにティファを‥‥俺の母さんを、そして俺の故郷を傷付け奪ったのか！」
クラウドはガラスポッドに手を付いて体を支え、なんとか立ち上がった。斬られた背中が燃えるように熱い。しかし、彼の心はその痛みも感じないほど、怒りと憎しみで溢れかえっていた。
「俺が今どんな気持ちでいるか、あんたには分からないらしいな。だったら‥‥こうすれば分かるはずだ！」
クラウドは残った力すべてを込めて、ガラスポッドを叩き割った。ポッドを破壊した彼の剣は、中のジェノバの首まで斬り飛ばした。
「貴様、何をする！？」
セフィロスの顔が怒りに歪んだ。
クラウドは足下に転がるジェノバの首を持ち上げた。
「あんたの大事な母親の首だ。‥‥受け取れ！」
クラウドは首を投げつけた。同時に、剣を構えて突進する。虚を突かれたセフィロスを、クラウドの剣が貫いた。
「あんたを‥‥決して許さない！」
「クッ、貴様‥‥！」
セフィロスは再度魔法を放ち、クラウドを吹き飛ばした。
しばし気絶していたクラウドが目を開けた時には、すでにセフィロスの姿はなかった。クラウドは剣を支えにして立ち上がり、ジェノバの部屋から出た。
階段の下で倒れたままのティファへと近付き、その傍らに跪く。すると、ティファはほんの少し目を開けて彼を見た。
「‥‥クラ‥‥ド‥‥」
ティファは再び昏睡状態に陥った。
ザックスの方を見ると、やはり彼も意識がないらしく身動きしていない。２人の容態は気がかりだが、今はセフィロスを止めることの方が先決だった。クラウドはセフィロスを追って走り出した。
セフィロスは炉心の真上に渡された細い非常用通路を歩いていた。剣で体を貫かれたダメージからか、歩き方に精彩がない。両の手には刀とジェノバの首をそれぞれ持っていた。
彼のあとを追い、クラウドもその危なげな通路に足を踏み出した。
「セフィロス、あんた行かせはしない！」
クラウドは背後から剣を振り上げた。
「いい気になるな‥‥」
セフィロスは振り向き様、刀を突き出した。そのままなら確実に刃はクラウドの体を貫いていた。しかし――
「サンダガ！」
セフィロスとクラウドの間に、激しい稲妻が落ちた。サンダガの魔法は通路を分断した。通路は脆くも崩れ落ちた。そして落ちたのは、セフィロスが立っていた側の通路だった。
セフィロスはジェノバの首もろとも、魔晄エネルギー渦巻く炉心の中へと落ちていった。
セフィロスが落下する様を、クラウドはスローモーションでも見るような感覚で見下ろしていた。一瞬見えたジェノバの顔が、笑っているように思えた。
「間一髪‥‥だな。」
振り向くと、そこにザックスが立っていた。
「ザックス‥‥」
ザックスはニヤリと笑うと、力尽きたようにその場に倒れた。
「ザックス！大丈夫か？こんな大怪我でサンダガみたいな魔法を使うなんて無茶だ。」
「これくらい‥‥ただのかすり傷‥‥。それに、お前にばかり‥‥いいカッコされちゃ‥‥たまらな‥‥から‥‥な‥‥」
ザックスは冗談めかして言ったが、今の彼にはしゃべることすら苦痛らしく、苦しそうに何度も息継ぎをした。
「待ってろよ、ザックス。今連れ出してやる。だから死ぬな。」
「バカやろ‥‥縁起でもな‥‥。これ‥‥くらいの傷‥‥俺が死ぬ‥‥かよ‥‥」
ザックスは目を閉じた。失神したようだった。
ザックスを肩に担ごうとしたクラウドだが、支えきれず折り重なるようにして倒れた。全身に力が入らない。今になって痛みの波が押し寄せてきた。
クラウドは意識を失った。
「‥‥このあとはどうなったの？」
倒れたまま動かなくなった２人を見つめながら、ティファは訊いた。
「しばらくして神羅軍がやって来た。軍に随行していた宝条は、虫の息だった俺達をセフィロス・コピー計画の実験サンプルとして収容したんだ。」
「私のことは？」
「ティファは神羅に見つからなかった。神羅が来る少し前にザンガンがやって来て、ティファを連れ出してくれたんだ。俺達も一緒に助け出そうとしてくれたんだけど、時間がなかった。」
「ザンガン先生‥‥。そうだわ。私を助けてくれたのはザンガン先生だったんだ。」
ティファの失われた記憶の糸が、今すべて繋がった。
ティファを救い出したザンガンは、回復魔法をかけ続けながら近隣の村まで走った。その村でティファの怪我がある程度回復するのを待ち、その後彼女を連れて東の大陸へ渡った。そして、ミッドガルに住む知り合いの町医者の元へ向かい、そこにティファを預けたのだ。
「クラウド‥‥ありがとう。約束通りちゃんとピンチの時に助けに来てくれたんだね。」
「行くのが少し遅れた。ごめん‥‥」
「そんなことない。すごく嬉しかった。」
ティファの言葉に、クラウドは嬉しそうに笑った。そのクラウドは消え入りそうに揺らめいていたさっきまでの姿とは違い、はっきりとした存在感を持ってそこに立っていた。
「‥‥それじゃ、お別れだな、ティファ。」
「え？」
「また、会うためにね。」
クラウドは自身を取り戻した。彼女の役目は終わったのだ。
「‥‥うん。またあとでね。私、先に行くわ。」
ティファは自分が徐々にクラウドから遠ざかって行くのを感じた。現実の世界へと戻る時だ。
「ありがとう、ティファ。それから‥‥君にも。君は約束を守ってくれた。俺を、見つけてくれた。‥‥本当にありがとう。」
クラウドは深い感謝を込めて呟いた。周りでは、彼の生み出した幻影の世界が一つずつ消え始めていた。
「よかったな、クラウド。」
声が聞こえた。懐かしい声。その声の主が誰なのか、今ならはっきりと分かる。
「ザックス‥‥お前だったんだな。ずっと俺を見守り、励ましてくれたのは‥‥」
「気付くのが遅いんだよ。」
ザックスは陽気な笑みを浮かべて歩いて来た。
「大体、お前が今使ってる長剣は俺んだろーが。戻ったら柄の部分をよく見てみろ。俺のイニシャルが彫ってあんだぜ。」
「ええ？ホントか？」
「おうっ。自分の持ち物にはきちんと名前を書いとけって、子供の頃からしつけられてるんでな。」
ザックスは冗談とも本気ともつかない言い方で笑った。
「しっかしさ、こんな守護天使めいたことするなら、相手はキュートでチャーミングな女の子がよかったぜ。野郎のケアは俺の守備範囲外だっつーの。」
ザックスは大袈裟にやれやれとため息をついて見せた。
「ザックス‥‥俺、すべて思い出したよ。あれからのことを。宝条につかまった俺達は、神羅屋敷の地下で実験サンプルとして物のように扱われていた。お前はチャンスを伺い、俺を連れて神羅屋敷から逃げ出すことに成功した。俺は魔晄のせいでほとんど廃人状態だった。だけどお前は、そんな俺を見捨てたりしなかった。」
「お前を放り出したりするもんか。俺達は親友だろ？」
「その言葉、ミッドガルへ向かう車の荷台でも言ってくれたっけ。嬉しかったよ。でも、ザックスお前は‥‥追っ手の神羅兵から俺を守るために、命を落とした‥‥」
「それでもちゃんと追っ手どもは片付けたんだぜ。ま、結局自分も死んでりゃ世話ねえけどな。ソルジャー・クラス１ＳＴたる者が、一般神羅兵ごときにやられるなんて我ながら情けないぜ。自慢出来た死に方じゃねえよな。」
ザックスはしきりに悔しがっている。そんな彼を見て、クラウドはおかしそうに笑った。
「のんきに笑ってんじゃねえよ。死んだあともお前のお守りをさせられるこっちの身にもなってみろってんだ。でも、それもこれで終わりだな。‥‥ほんじゃ、俺も行くとするか。」
「行くってどこへ？」
「俺が本来行くべき場所へさ。彼女の言葉で言うなら、星に還る、ってことになんのかな。あの子、ホントいい子だよな。任務でミッドガルを離れる前にもっと時間があれば、絶対にゲットしたい子だったぜ。そうだ、クラウド。お前、本当はどっちがいいんだ？」
「なっ、なんだよ、急に。」
「いやいや、聞くまでもないか。お前の心は俺は全部お見通しだからな。」
ドギマギしているクラウドを見て、ザックスはニヤニヤと笑った。
「それじゃあな、クラウド！」
軽く手を振ると、くるりと背を向けて走り出した。
「待ってくれ、ザックス！俺はまだお前に礼も言ってない！お前がいなかったら俺は‥‥」
「礼なんて堅っ苦しいことはなしだぜ。それに、俺に感謝したいなら行動で示せよ。絶対に死ぬな！俺の分までせいぜい長生きしろよな！それと‥‥」
ザックスは最後に振り向いた。
「セフィロスを助けてやれ。あいつも助けを待ってるはずだ。」
「セフィロスを助ける‥‥？どういう意味だ？」
「さあな。俺にもよく分からない。でも、彼女なら知ってるかもな。‥‥それじゃ、今度こそさよならだ！クラウド！」
ザックスは笑顔のまま大きく手を振り、そして、消えた。
クラウドの周りにはもう何もなかった。残っているのは彼自身だけだった。
「‥‥ああ、俺も帰るよ。導いてくれ‥‥」
クラウドの前に淡く輝く光の輪が現れた。その輪の中から、彼に向かってゆっくりと手が差し伸べられる。
クラウドはその手を握った。
――おかえりなさい。
心がほっとするような、優しいぬくもり。ずっと帰りたくて探し続けていた場所に、今ようやく辿り着いたのだと、そう感じた。
そっと目を開ける。水の底にいるような輝く揺らめきが見えた。静寂の下を流れるような小さなせせらぎが聞こえた。
瞬きをすると、水の光景は幻のように消え去った。代わって鋼鉄の天井が見下ろしていた。
ゆっくりと視線を移す。彼がいた。ベッドの傍らに跪き、目覚めた彼女を見つめている。
目が合うと、クラウドは少し照れくさそうに言った。
「ただいま‥‥」
「‥‥おかえり。」
エアリスは微笑んで応えた。
自分の手をクラウドが握っていた。本物の彼の手だ。気遣うように握られたその手を、エアリスは握り返した。
「もう起きないんじゃないかと思ったよ。心配した。」
「私、そんなに長く眠ってた？」
「俺とティファが目覚めてから丸二日は経ってる。」
エアリスは自分が寝かされている部屋が、ハイウインド内の医務室だということに気付いた。
「ティファは？元気なの？」
「ああ。なんともない。さっきまでここで一緒に付き添ってたんだ。今は他のみんなと一緒に隣の部屋で休んでる。エアリスが目覚めたと知ったらすごく喜ぶよ。ずいぶん心配していたからな。」
「そう‥‥。よかった、２人とも無事で。」
「エアリスのおかげだ。ありがとう。」
エアリスは笑って首を振った。
「私は何もしてないよ。お礼ならティファに言ってね。それと‥‥彼にも、ね。」
「‥‥ああ。俺がこうしてここにいられるのは、みんなのおかげだ。」
「うん‥‥。でもね、最後に必要だったのは、やっぱりクラウド自身の力だよ。クラウドは自分の力で自分を取り戻した。私達は少しその手助けをしただけ。よくがんばったね、クラウド‥‥」
エアリスとクラウドはお互いの手を、さらに固く握り合った。
「あ、エアリスさん！起きたんやな！？おーい、みなさーん！エアリスさんが起きたでー！」
ドアを開けて入って来たケット・シーが、部屋の外に向かって叫んだ。すると、他の仲間達が次々に医務室の中へなだれ込んで来た。
一番に駆け込んで来たティファは、ベッドの上のエアリスに覆い被さるようにして抱きついた。
「よかった‥‥エアリス。本当によかった‥‥」
「心配かけてゴメンね。でも、もうだいじょぶだよ。」
エアリスはティファの髪を優しくなでた。
「ライフストリームの強い流れから、彼女はたった一人でお前さん達をかばっておったのじゃ。想像以上に激しく精神力を消耗したのじゃろう。本当にご苦労じゃったな、エアリス。」
ブーゲンハーゲンはねぎらいの言葉をかけた。
「でもよかったぜ。エアリスが目覚めてこれでようやく一安心だな。」
バレットはほっと息をついた。
クラウドは立ち上がり、仲間達に向き直った。
「俺は‥‥みんなに謝らなければならない。本当にすまなかった。なんて言ったらいいのか‥‥」
「いつまでも過ぎたことでウジウジしてんじゃないっての！もうみんな、そんなこと気にしてないんだからさ！」
ユフィはクラウドの背中をバンッと叩いた。
クラウドはユフィの荒っぽい励ましに、軽く頷きながら話を続けた。
「俺は元ソルジャーなんかじゃない。ソルジャーになると大見栄きって村を出たはいいが、結局は叶わなかった。そんな自分を俺は恥じていた。そして俺は、親友だったソルジャーのザックスから聞いた話や、自分が実際に見聞きしたことを混ぜ合わせ、幻想の自分『元ソルジャーのクラウド』を創り出した。今までの俺は、その役を演じる道化役者にすぎなかったんだ。みんなに話して聞かせた５年前の出来事やソルジャーとしての話も、すべて幻想の俺が創り出した幻想のストーリーなんだ。」
「幻想ねえ‥‥。本物のソルジャーじゃないにしても、その割にはけっこう強かったじゃねえかよ。」
バレットは今までのクラウドの戦い振りを思い返しながら言った。
「体の方はソルジャーとほとんど同じなんだ。宝条のいうセフィロス・コピー計画とは、ソルジャーを創るやり方となんら変わりなかった。ソルジャーは魔晄を浴びるだけでは完成しない。その体にジェノバ細胞を埋め込まれた人間達がソルジャーなんだ。良くも悪くも心が強い人間はソルジャーになる。ジェノバのリユニオンにも影響されない。けれど、俺のように弱い人間は簡単に自分を見失ってしまうんだ。」
「怖い話だね。ミディールで見つかった時のクラウドがまさにそれだったんだ。」
レッドXIIIは納得したように頷いた。
「アイシクルロッジで見たビデオの中で、エアリスのお母さんが言ってたわね。２千年前、空から来た厄災、つまりジェノバにセトラ達は何かを植え付けられて、そのせいで心を失いモンスターと化し、セトラの民は絶滅寸前の危機まで行ったって。あの時のジェノバがやったことを、今は宝条がやってるんだわ。人の命を、心を弄ぶようなことをしてあのイカレ科学者、絶対に許せない！」
ティファはそこに宝条がいるかのように、正面の壁を睨み付けた。
エアリスもティファと同じような憤りを感じていた。しかし、ふと何か妙に心に引っかかるものがあった。
「ジェノバ細胞‥‥」
ヴィンセントの小さな呟きを、エアリスだけが聞き取った。
「どうしたの、ヴィンセント？何か気になることでもあるの？」
「‥‥いや、なんでもない。」
ヴィンセントはそっけなく答えると、壁にもたれかかって目を閉じた。
「ジェノバ細胞とセフィロスの強い意志の力。そして弱い俺自身の心が生み出した人間。それが今までみんなが見てきた『俺』なんだ。体は現実にあっても、心は幻想の中にいた。でも、その幻想はもう終わった。二度と戻る気はない。俺はありのままの自分でこれからを生きていくつもりだ。」
「ひねくれ者で皮肉屋のクラウド君の復活ね。」
「なんだよ。それじゃ今までと変わんねえぜ。」
ティファとバレットが囃し立てた。
「それで、クラウドさん。これからどないするつもりです？まさか船から降りるっちゅうことはナシですよ？」
ケット・シーはクラウドの様子を伺うように訊いた。
「メテオが降ってきているのは俺の責任なんだ。ここで逃げ出すようなマネはしないよ。」
「そうこなくちゃな！俺達の乗った列車はノンストップ超特急だ。途中下車は出来ないぜ！」
バレットは得意の台詞を叫んだ。今やこの言葉は、彼らの決意の合い言葉になりつつあった。
レッドXIIIが鼻先でクラウドをつついた。
「ねえクラウド、あれはエアリスに渡したの？」
「ああ、一番大切なことを忘れてたよ。」
「あれってなあに？」
不思議そうに尋ねるエアリスの目の前に、クラウドはある物を差し出した。
「‥‥え？」
エアリスはクラウドの手のひらにある物が、一瞬なんなのか分からなかった。いや、頭では分かっていても、にわかには信じられなかったのだ。
それは白マテリアだった。セフィロスに持ち去られ、大空洞の崩壊によりそのまま埋もれてしまったはずの物がそこにあった。
「意識が混濁している間、俺はこれをずっと握りしめていたらしいんだ。どうやって白マテリアを手に入れたのか、俺自身はまるで覚えがないんだけどな。」
「白マテリアだよ、ほらエアリス！母さんの形見が戻って来たよ！」
ユフィは自分のことのようにはしゃいでベッドサイドで飛び跳ねた。
「なんだか夢みたい‥‥」
エアリスはティファに支えられて、ベッドから身を起こした。幻でも見るような気持ちで、クラウドの手の上の白く輝くマテリアを見つめる。
「これさえあればメテオなんてひとっつも怖いことないですわ〜。もっぺんこれ使ってホーリー呼んで、スパーンとメテオをやっつけましょ！」
ケット・シーはメガホンをバット代わりに、ボールを打つマネをした。
「うん、そうだね。あの時は失敗しちゃったけど、今度は絶対ホーリーを呼んで見せるね。」
エアリスはクラウドから白マテリアを受け取った。それを大事そうに胸に抱く。
その途端、白マテリアに変化が現れた。白マテリアは淡いグリーンの光を放ち始めた。
「この光は‥‥」
エアリスは指の間からこぼれ出る光の色を見て、何かに似ていると感じた。
「北の大空洞で見たライフストリームの色と同じだ‥‥」
レッドXIIIがその答えを言った。
「ライフストリームと同じ色、優しく暖かな緑‥‥これは生命の色じゃ。やったようじゃな、エアリス。」
ブーゲンハーゲンの言葉に、エアリスは笑顔で頷いた。
「やったって何がだよ？どうなってんだ？」
バレットはブーゲンハーゲンとエアリスの顔を交互に見た。
「星と語り、願いが星に届けばホーリーは現れる。その時、白マテリアは淡いグリーンの光を放つのじゃよ。」
「‥‥てことは、この光はホーリーを喚ぶのに成功したっていう証しなんだな！？」
「あの時ね、エアリス！古代種の都の水の祭壇で、星と対話したあの時にホーリーの召喚に成功していたんだわ！セフィロスに白マテリアを奪われて分からなかったけど、エアリスの言葉はちゃんと星に届いていたのよ！」
ティファはやや興奮気味にエアリスの手を白マテリアごと握った。
「エアリス天才！すっごい！やったね！」
ユフィは飛び上がってガッツポーズをし、隣のケット・シーとハイタッチした。
「姉ちゃん、お手柄だな！で、そのホーリーとやらはいつになったら現れるんでい？とっととあの空の上のでっかい火の玉をぶっ飛ばしてもらいてえ‥‥ど、どうしたい、いきなりみんな固まりやがってよ。俺様なんか悪いこと言ったか？」
シドの何気ない言葉で、場の賑やかさが一瞬にして沈黙した。
「シドの言うとおりだよ。実際にホーリーが動き出すのがメテオの発動後としても、あれからもう何日も経ってる。なのに、どうしてホーリーは現れないんだろう？」
レッドXIIIは天井に阻まれて見えない空を仰いだ。
「‥‥ホーリーは現れたくても、そうすることが出来ないんじゃよ。」
「どういうことだ？」
クラウドはブーゲンハーゲンを見た。
「大空洞にいるセフィロスは、星からエネルギーを奪い続けておる。その上、この星は以前から魔晄炉の乱立などにより弱っておった。もはや今の星に、ホーリーを生み出す力はないのじゃろう。」
「そんな‥‥」
ティファは口元を手で押さえた。
「くっそー、なんてこったよ！せっかくエアリスが命懸けでホーリーを呼んだってのに！」
バレットはパイプ椅子を蹴っ飛ばした。
静まり返った部屋の中に、絶望感が漂う。
「‥‥星は死んだ訳じゃない。」
その重い空気に押し潰されないように、クラウドは力強く言った。
「確かに星は今、弱っているのかもしれない。でも、まだ生きているんだ。星が生きている以上、諦める訳にはいかない。星にとっての最大の脅威であるセフィロス。奴を倒すんだ。そうすれば、星はまた息を吹き返すはずだ。」
「可能性の問題じゃが、望みはあるかもしれんな。ごくわずかな希望じゃが‥‥」
「わずかでもいいよ。希望があるならやろう。星はまだ、生きたがってるんだから。」
エアリスは白マテリアを手のひらに乗せ、仲間達によく見えるように差し伸べた。
白マテリアの放つ暖かな光が彼らを照らす。その淡い光はそのまま不思議な力となって、体の中に流れ込んでくるようだった。
「続けよう。星を救う戦いを、ね。それは、私達自身のための戦いでもあるんだから。」
彼らは何も言わなかった。無言の頷きが、その決意の現れだった。
まだ夜が明け切らぬ早い朝、エアリスはハイウインドの甲板に出ていた。毛布で体を覆ってコート代わりにしているが、早朝の風は十分冷たかった。
手の中の白マテリアを眺めていると、背後で飛空艇内部に続くドアが開いた。
「当たりっ。」
「は？」
現れた人影は戸惑ったような声を上げた。
「クラウドが来てくれるんじゃないかな〜って思ってたの。見よ、この鋭いカン！」
「また例の女のカン、てやつか。」
「まあねっ。」
クラウドはエアリスの隣に並んだ。
「白マテリアを見てたのか？」
「うん。これがまた私のところに戻ってくるなんて、正直思ってなかった。ホントにありがとね、クラウド。」
「エアリスが喜んでくれるのは嬉しいけど、俺自身は何も覚えてないからなあ。あ、でも‥‥」
「うん？」
「ライフストリームを流されている間、ひどく孤独で、苦しくて、気が狂いそうだった。だけど、それをギリギリのところで耐えられたのは、これが守ってくれていたからかもしれない。そんな風に思えるんだ。」
「‥‥そっか。」
２人はしばらくの間、ただ黙って白マテリアを見つめた。
「そういえば、夜こんな風にクラウドと２人だけで話したこと前にもあったね。」
「ああ。ゴンガガ‥‥ザックスの故郷で‥‥」
クラウドは痛みを感じた。体ではなく心の痛みを。
「ザックス、いい人だったね。」
「‥‥なんでも屋っていうのも、実はザックスのアイデアなんだ。ソルジャーとしての知識と力を生かせる仕事はこれだ、とか言ってな。」
「ふーん、そうだったんだ。でもそれって多分、出来ることはなんでも仕事にしちゃえってことで、なんでも屋なんていう職業を考えついたんじゃないのかな。」
「いかにもザックスらしい発想だな。ミッドガルに着いたら、俺達２人でなんでも屋をやろうって言っていた。だけど‥‥ごめん。」
エアリスはきょとんとした。
「どうして謝るの？」
「ザックスが死んだのは俺のせいだ。あいつ一人なら追っ手を簡単に振り切れたはずなんだ。俺がいたからあいつは‥‥」
言い淀むクラウドの額を、エアリスは指でパチンと弾いた。
「な〜に言ってるのっ。クラウドのせいなんかじゃない。第一、ザックスがクラウドを恨んでるようなこと言った？違うよね。それどころか、ずっとクラウドのそばにいてくれてたんじゃない。クラウドがそんな風に考えたら、彼きっと怒ると思うな。」
「‥‥そうだな。」
額をさすりながらクラウドは苦笑した。
「なあ、エアリス。」
クラウドは真面目な顔に戻って言った。
「ザックスの言っていた、セフィロスを助けてやれっていう言葉、あれはどういう意味なんだ？」
「私もそれをずっと考えてたんだけどね。でも、よく分からないの。ただ、妙な違和感は感じる。うまく口では言えないんだけど‥‥」
２人は再び沈黙した。ハイウインドが風を切る音だけが聞こえた。
「考えてみれば、あれは私の責任でもあるんだよね。」
エアリスはふと思い出したように言った。
「何がだ？」
「あれあれ。」
エアリスは人差し指でくいくいと天を指さした。その延長にはメテオがある。
「水の祭壇でユフィが黒マテリアをスリ取った時に、思い切って壊さなかったのがそもそもの失敗。白マテリアに未練があったからつい、ね。その上、最重要アイテムである黒マテリアを、お手軽に腕輪にはめておくなんて愚の骨頂だよねえ。白マテリアと同じに髪の結び目に仕込んでおけば、あんな簡単にクラウドに取られることもなかったのに。」
「そういう問題か？」
「そういう問題だよ。あ〜あ、失敗したなあっ。」
エアリスは悔しそうに手すりをゴンゴンと拳で叩いた。
クラウドはそんなエアリスを見て、彼女が自分を気遣ってくれているのだと理解した。心の負担を、少しでも取り除こうとしてくれている。
「‥‥ありがとう。」
「ん？何か言った？」
クラウドはあえて繰り返さず、微笑して首を振った。
エアリスは結んだ髪をほどいた。束ねた髪の中に白マテリアを入れ、それを再び強く結ぶ。
「それ、ユフィのハチマキか？」
「私のリボン切られちゃったからね。あれ、お気に入りだったんだから。セフィロスに弁償させなきゃ。」
「ははは、それはかなり難しそうだな。」
クラウドは笑った。昏睡より目覚めてから、彼が久々に見せた心からの笑顔だった。
同じ頃、ハイウインドの内部ではバレットが甲板への出入り口に通じる階段を上がって来るところだった。
バレットはドアの前に立つティファを見つけた。ドアを薄目に開け、甲板に出ようか否か迷っているように見える。
「何してんだよ、ティファ？クラウドとエアリスはいたのか？」
ティファは弾かれたように胸に手を当てながら振り向いた。
「あ、バレット‥‥。うん、いたわよ。２人とも甲板に出てる。」
「なら早く呼びに行こうぜ。みんなもう集まってんだからよ。‥‥どうしたんだ？ボーッと突っ立ってよ。」
「ちょっとね、気持ちの整理をつけたくて‥‥」
「どういうこった？」
ティファはどことなく寂しそうに肩をすくめた。
「初恋の人だった、か‥‥。過去形って場合によっては、少し寂しい意味になるよね。」
バレットはドアの隙間から見えるクラウドとエアリスを見た。そして何かを理解したという表情で、目の前のティファに視線を戻した。
「‥‥でもね、あまり辛くないの。胸の奥は少し痛むけど、心は澄んだ晴れの日みたい。不思議だよね。」
「う、う〜ん‥‥。俺は色恋沙汰には疎い方だからなんとも言えねえが、それはお前があの２人の両方を好きだからじゃねえのか？」
バレットは照れくさそうに頭をかいた。
ティファは少し驚いたような表情でバレットを見た。そして、その顔が笑顔へと変わるまで、長くはかからなかった。
ティファはドアを大きく開け放って甲板に飛び出した。
「クラウド！エアリス！大至急オペレーションルームに集合よ！ケット・シーが神羅の極秘情報を掴んだんですって！」
数分後、全員がオペレーションルームに集まった。この部屋はハイウインド内における会議室のような場所である。
「極秘情報とはなんなんだ、ケット・シー？」
クラウドは身を乗り出して訊いた。
「神羅がメテオ破壊計画に乗り出したみたいなんですわ。」
「メテオ破壊計画？」
「はい。なんともハデな計画ですよ〜。ロケットを飛ばして、それをメテオにぶつけて壊してまうっちゅう内容らしいんです。」
「ロケットだあ？おい、そりゃまさか‥‥」
シドはゆらりと立ち上がった。
「さすが察しええですなあ。その通り、使用するロケットは神羅２６号ですわ。」
「なに〜！？冗談じゃねえ！今すぐロケット村へ向かうぞ！」
叫ぶように言うと、シドはものすごい勢いでオペレーションルームから飛び出して行った。
ハイウインドは１８０度方向転換し、ロケット村を目指した。
「シドが熱くなる気持ちも分かるよ。あんなに大事にしていたロケットを壊されちゃたまらないだろうからな。」
クラウドの言葉に対して振り返ったシドは、片眉を吊り上げた。
「あ〜ん？何言ってやがる。俺様が頭に来てんのはなあ、この俺様を差し置いて神羅２６号を打ち上げようってのが気に入らねえんだよ。最初に宇宙に行くのはこの俺様、シド・ハイウインドに決まってるんでい！」
「ということはシド、これからロケット村に行くのは神羅２６号の発射を止めるためじゃなくて‥‥」
「もちろん！俺様が乗り込むためでい！」
シドは胸を張って宣言した。
「じ、自爆する気かよ、あんた！？」
バレットは目を丸くした。
「バッカやろっ。誰がそんなことするかってんだ。神羅２６号にはちゃ〜んと脱出用ポッドが積んであるんでい。メテオにぶつかる前に逃げ出しゃいいこった。」
シドはタバコを一本取り出し、のんびりと火を付けた。
「そこまで宇宙にこだわるとは、あんたも大した人だな。」
クラウドは半ば呆れ気味に苦笑した。
「しかし、ロケット一基が衝突したくらいであのメテオを破壊出来るのだろうか。」
ヴィンセントは言った。
「神羅２６号にはヒュージマテリアを積み込むらしいですわ。」
その疑問にケット・シーが答えた。
「ヒュージマテリアか。なるほどな。」
「なんだよ、そのなんとかマテリアってのは？」
バレットは訊いた。
「ヒュージマテリア。人の頭くらいあるでっかいマテリアのことです。その威力は通常の３３０倍やそうです。」
「３３０倍！？すげえな、そりゃ。」
「別にそう驚くほどのものではない。単に３３０個分のマテリアをギュッと圧縮しただけにすぎない。昔、宝条が天然のマテリアに匹敵する威力のあるものを作ろうとしたらしいが、結局こんな子供だましのものしか作れなかったということだ。」
ヴィンセントの口調には皮肉がこもっていた。
「それでも数を積み込めば、それなりの破壊力はあるかもしれまへんけどな。」
「だけど、本当にそれでメテオを破壊することが可能なのか？」
クラウドは半信半疑に言った。
「人の浅知恵という感じがしないでもないが、今回はそれに頼ってみるのもいいかもしれんのう。」
ブーゲンハーゲンがのんびりとした足取りでブリッジに入ってきた。
「星が生み出した魔法の力と、人が生み出した科学の力。互いにうまく作用すればあるいは‥‥。そう期待してみるとするかな。」
「いいこと言うじゃねえか、じーさん。俺様も人間が自ら創り出した科学って力に賭けてみたいんでい。地べたを這いずるしか能のなかった人間が空を飛び、ついには宇宙に行こうってんだ。それもこれもみんな科学の力だ。その科学が星を救うかもしれねえってんなら、科学でメシを食ってきた俺様としては、その力を信じない訳にはいかねえよな！」
舵を取るシドの手に、グッと力が入った。
「てことはつまり、俺達は神羅の手助けをしに行くってことかよ。なんか癪に障るぜ。」
バレットは不満げに鼻を鳴らした。
「うだうだ言うない。今は神羅だのアババンチンだのと言ってる時じゃねえだろよ。」
「アババンチン？」
クラウドは首を傾げた。
「違った。アパランチンだっけか？」
「アバランチだ！」
バレットは声を大にして訂正した。
少し離れた場所でシド達の会話を聞いていたエアリスとティファは、おかしそうに声をひそめて笑った。
「みんなお気楽だねえ‥‥うぷっ。」
床に座り込んで背を向けているユフィが物憂げに言った。
「ね、ユフィ。さっきから何してるの？気分悪いなら医務室で寝てたらいいのに。」
「寝てる暇なんかないって。これを読んでしまわないとさ‥‥うげぇ。」
エアリスが覗き込むと、ユフィは膝の上に古びたノートを広げていた。ウータイを離れる時に、父ゴドーから渡された例の虎の巻である。
「究極のマテリアのことが書いてあるっていうユフィのお母さんの形見のノートだね。」
「ただでさえ乗り物酔いがひどいのに、わざわざ今読むことはないんじゃない？よけいに気分悪くなるような気がするけど。」
ティファはユフィの背中をさすってやった。
「はう‥‥い、いいの。アタシ、本とか読んでるとすぐ眠くなるんだもん。こうやって乗り物酔いに耐えてれば、眠くなる暇なんてないし‥‥うぷぅ。」
ユフィはいつもよりさらに青い顔をしてノートの文字を睨みつけていた。
「ふふっ。ご苦労様、ユフィ。」
エアリスとティファはユフィの読書の邪魔をしないように彼女から離れた。
「ねえねえ、２人ともこっちに来てよ。」
ブリッジの展望窓の前にいたレッドXIIIが２人を呼んだ。
「今ちょうどジュノンの上空を通過中なんだけどさ、ちょっと下を見てみなよ。」
エアリスとティファは言われるままに下界を見下ろした。
「‥‥？何か‥‥」
「物足りない感じ、するね。」
「だろ？」
眼下を通り過ぎる要塞都市。その街を眺めて感じた違和感の正体を、その時の３人はつかむことが出来なかった。