――分かるか、クラウド？
「ああ、聞こえてる‥‥」
――大丈夫なのか？
「分からない‥‥。俺はどうなったんだ？」
――‥‥
「教えてくれ。俺は‥‥」
――答えは、自分で見つけるんだ。
「なぜ、教えてくれない？待ってくれ‥‥」
――もう、起きる時間だ‥‥。
「‥‥ラウド、起きた？だいじょぶ？」
目を開けると、エアリスやバレット、ティファ、ユフィの顔が一度に飛び込んできた。皆、心配そうな顔をしている。
「クラウド、気分はどう？」
ティファは訊いた。
「‥‥ここは、どこだ？」
「アタシの故郷、ウータイだよ。ここはアタシんち。あんたのおかげで、その気もないのに里帰りするハメになっちゃったよ。」
ユフィは大袈裟にため息をついて見せた。
「俺は‥‥。そうか、俺がしたこと‥‥。黒マテリアは、セフィロスの手に‥‥」
「そのことは考えない方がいいよ、クラウド。」
エアリスは言ったが、クラウドは頑なに首を振った。
「そんなのは無理だ。俺は‥‥この手で黒マテリアをセフィロスに‥‥」
「そうだね。気にするなっていう方が無理だね。じゃ、思い切り気にしなさい。そして、好きなだけ悩んだら後は行動あるのみ、だよ。」
「行動？黒マテリアを手に入れたセフィロスはメテオを呼んでしまう。それを止める手段があるって言うのか？」
「あるよ。」
エアリスの言葉にクラウドだけでなく、他の者達も驚いた。
エアリスはおもむろに結んだ髪をほどくと、髪の束の中から小さな白い物体を取り出した。
「いつかクラウドに話さなかった？私が持ってる、使えないマテリアのこと。それが、これ。白マテリア。」
エアリスの手のひらの上で、透明に近い白さのマテリアが輝いていた。
「白マテリア‥‥」
「黒マテリアと対をなす白マテリア。これを使えば、セフィロスのメテオを防ぐことが出来る。」
「そりゃ本当か、エアリス？」
バレットは期待に満ちた顔で訊いた。
「私自身も今まで、このマテリアの意味を知らなかった。けど、神殿であの泉に触れた時、いろいろなこと分かったの。白マテリアが持っている力も教えてもらった。破壊魔法メテオに対抗する唯一の力、それが聖魔法ホーリー。」
「ホーリー‥‥。それを使えば、メテオを防げるのね？まだ、戦いは終わってないのね？」
ティファが言うと、エアリスは力強く頷いた。
「まだ、勝ち目はある。だから、行こう、クラウド。」
「よし、行こうぜ、クラウド！勝負はこれからだ！‥‥おい、のたのたしてる場合じゃねえぜ。一刻を争うんだからよ。」
バレットはクラウドの腕を掴み、引き起こした。
「‥‥嫌だ。」
「なにい？嫌ってどういうこった？」
「俺は‥‥行きたくない。」
クラウドは手を振り払い、だだっ子のように膝を抱え込んだ。
「俺は怖いんだ。また、おかしくなるかもしれない。セフィロスがそばにいると、俺は‥‥。自分が自分でなくなってしまうような気分になる‥‥」
「だからって、ここで寝ててもしょうがねえだろう。お前がセフィロスに黒マテリアを渡しちっまったのは事実なんだ。だから、責任を取れよ。メテオを止めるんだ。」
「出来ない‥‥」
「いい加減にしろ！」
バレットはサイドボードを蹴っ飛ばした。ユフィが、「アタシのもん壊さないでよ！」と目くじらを立てたが、おかまいなしに言った。
「お前がいろんな問題を抱えたヤツだってのは分かってるさ。だけど、それはみんな同じだ。問題のない人間なんていねえ。みんな、いろいろ悩みながら生きてるんだ。けどよ、それから逃げてちゃどうしようもないんだぜ？‥‥俺も本当はこんな説教をたれる筋合いの人間じゃねえさ。コレルを出てからというもの、俺は過去から逃げてばかりいたんだからな。だが、逃げて逃げ切れるもんじゃねえ。向かい合って、立ち向かうしかねえんだよ。」
「‥‥」
「クラウド。俺達の乗った列車は走り出してるんだ。もう、途中下車は出来ないんだぜ。」
クラウドはバレットの顔を見、そして順々に仲間達の顔を見ていった。何か言いかけるように口を開いたが、そのまま口を閉ざした。
「バレット、クラウドに少し時間を上げましょうよ。ね？」
ティファの言葉に従い、クラウドを部屋に残して仲間達は外に出た。
「クラウド‥‥私、信じてるからね。きっと来てくれるよね？」
ティファはそう言い残して、そっとドアを閉めた。
「‥‥怖い。俺は、真実を知るのが怖い。でも、それはなぜだ？記憶‥‥いつからなのか。まるで、覚めない夢の中にいるみたいだ‥‥」
クラウドは両手に顔を埋めた。
エアリス達は家から出ると、ユフィの家の表にある大きな樫の木に向かった。その根本には、シド、ヴィンセント、レッドXIIIの３人がいた。
「どうでい、クラウドの具合は？」
シドは訊いた。
バレットは黙って首を振った。
近隣の町にツォンを送り届けたシド達と合流した後、彼らはユフィの提案でこのウータイにやって来た。
ウータイは他の町と比べ、ずいぶん雰囲気の違う町だった。近代的な文化に俗されていない独特の情緒を持った土地である。町の背景にある大きな岩山の壁には、この地方の守り神であるダチャオ神の像が刻まれていた。
「ねえ、エアリス。さっきの白マテリア、もう一度よく見せてくんない？」
ユフィは頼んだ。エアリスが手渡すと、しげしげと穴の空きそうなほど白マテリアを見つめた。
「これがユフィの捜してる究極のマテリアかどうか、品定めしてるの？」
「えへへ、バレたか。でも、これも違うみたい。」
ユフィは白マテリアをエアリスに返した。
「究極のマテリアって、一体どんなものなの？」
「それがアタシにも分かんないんだよね〜。でも現物を見れば、カンで分かると思うんだ。」
「マテリアハンターのカン、ね。」
「そゆこと。それと、母さんが捜してたマテリアだしね。」
「ユフィのお母さん？」
「アタシの母さんも、元マテリアハンターだったんだ。世界をまたに掛けるスゴ腕のハンターだったんだって。母さんの夢は、究極のマテリアを見つけること。でもオヤジと結婚して、アタシが産まれてハンター家業は休業。アタシが大きくなったら、一緒に究極のマテリア捜しをやろうって約束してた。けど‥‥嘘みたいに、あっさり病気で死んじゃった。あんなに元気だったのに‥‥」
ユフィはうつむいた。が、次に顔を上げた時は笑顔だった。
「だからね、アタシ決めたんだ。母さんの代わりに、アタシが究極のマテリアを捜し出してやるってね。母さんの夢を、アタシが叶えるの！」
「そっか‥‥。がんばってね。ユフィならきっと出来るよ。」
エアリスはユフィがとてもいじらしく思えた。
「もっちろんさ！」
ユフィは得意のＶサインをして見せた。
「お母さんの夢‥‥。私のお母さんは、何をしたかったのかな‥‥」
エアリスは死んだ母イファルナのことを思った。しかし、あまりに早く死に別れたため、母にまつわる思い出は多くなかった。
だが、母が明るく楽しい人だったということは、はっきりと思い出せた。どんな辛い時でも、決して弱音を見せたりしない強い人だった。母のような人になりたいと、エアリスは小さい頃からずっと思っていた。
エアリスは白マテリアを手のひらの上に乗せ、陽の光に当てた。太陽光を反射し、目に眩しいほどに光る。
「この白マテリアはね、私のお母さんがくれたものなの。いつもは大事なものだからって、私には触らせてくれなかった。でも最後、息を引き取る間際に私の手にこれを握らせてくれた。だから、この白マテリアは私にとってはお母さんの形見。星を救うマテリアという以上に、とてもとても大切なものなの。」
白マテリアを両手でそっと包み込み、胸に抱いた。マテリアから温もりを感じる。たとえこの温もりが、太陽光や自分の体温によるものだとしても、エアリスはいつもこの暖かさに励まされてきた。
白マテリアを抱き、それと対話するように目を閉じたエアリス。そんな彼女の隣にいるだけで、ユフィは不思議と心が安らぐ感じがした。
「ユフィ！」
気持ちのよいうたた寝気分だったユフィは、その声を聞いてビクッと体を硬直させた。
「ゲッ、オヤジ‥‥」
目の前に、口髭を生やしたおかっぱ風黒髪の中年男性が立っていた。厳格そうな顔つきのその男性は、ユフィの父ゴドーだった。
「お前が帰って来たという町の者の話を聞いて、稽古を途中で切り上げて戻って来たのだが本当だったのか‥‥」
ゴドーはユフィに近付くなり、ポカッと拳固で頭を叩いた。
「いってー！何すんのさ、このクソオヤジ！」
「若い娘がこんなに長く家を空けおって、この家出不良娘が！」
「アタシはマテリアハンターだよ。世界を飛び回るのが仕事！チンタラ家になんかいられないじゃん。」
ユフィは頭をさすりながら口を尖らせた。
「なるほどな。船にもロクに乗れん者が、世界を飛び回るとはよく言ったものだ。お前はまだ究極のマテリアとやらを捜し回っているのか？」
「そうだよ、悪い！？究極のマテリア捜しはもともと母さんの夢だけど、今はアタシの夢でもあるんだ。これを見つけるまでは、アタシの旅は終わらないんだからね！今日はたまたま立ち寄っただけさ！」
「‥‥相変わらず頑固なヤツだな。一体誰に似たのやら‥‥」
ゴドーはやれやれという風に頭を振った。
「母さんはアタシとオヤジの気性はそっくりだって言ってたよ。ホント、冗談じゃないよね〜。オヤジみたいなデリカシーのない唐変木と一緒にするなって言いたいよ。」
「わしの方こそ、お前みたいなスカタンの大たわけと同類視されるのは迷惑千番だ。」
「誰がスカタンの大たわけだってえ！？よくも言ったな〜！このぐーたらオヤジ！」
親子は口ゲンカをますますエスカレートさせた。しかし、どこかそれを楽しんでいるようにも見える。これが彼ら親子の一種のコミュニケーションなのかもしれない。
「お父さん、か‥‥」
エアリスはじゃれ合うように口ゲンカするユフィ・ゴドー親子を、うらやましそうに見つめた。
「そう言えば、エアリスのお父さんてどんな人？‥‥あ、ゴメン。立ち入ったこと訊いたね。」
ティファは慌てて言葉を打ち消した。
「いいの。だって私、お父さんのこと全然覚えてないから。お父さんのことで知ってるのは、私が産まれてすぐに死んだことと、オーギュストっていう名前だったってことだけ。」
「そうなの‥‥。お父さんもやっぱり古代種なの？」
「それは違うみたい。お父さんはセトラとは関係のない人だったみたいなの。お母さんにお父さんのことを何度か訊いてみたことあったんだけど、悲しそうな顔するからあまり深くは訊けなかった。今ではちょっと後悔してる。もっといろいろお父さんのこと知りたかったな、なんてね。」
見ると、ユフィとゴドーの口ゲンカはまだ続いていた。
「仲がいいんだね、ユフィとお父さんて。」
エアリスは微笑んだ。
「あのね〜、この状況見て分かんない！？どこが仲いいってのさ！あ〜！やっぱ帰って来るんじゃなかったよ！」
ユフィはゴドーに向かってあっかんべーをすると、向こうへ行ってしまった。
ゴドーはようやく、エアリス達の存在に気付たように挨拶した。
「わしはゴドー・キサラギ。ウータイ武術の指南役をしている者だ。みっともないところをお見せしたな。男手ひとつで育てたものだから、あんな風に口の悪い乱暴者な娘になってしまった。あなた達にも、いろいろ迷惑をかけているのではないか？」
「そんなことない。ユフィはいい子よ。‥‥乗り物には弱いみたいだけどね。」
エアリスは苦笑しながら付け加えた。
「はははっ、それはわしの血筋だ。わしも乗り物はからきしダメでな。では、稽古の途中なのでこれにて失礼。何もないところだが、ゆっくり旅の疲れを癒していくといい。」
ゴドーは軽く一礼すると、町の方へ戻って行った。
ゴドーが立ち去るのと入れ替わるように、家の中からクラウドが出て来た。
「クラウド、気分はもういいの？」
ティファは訊いた。
「ああ、もうなんともない。迷惑かけたな。‥‥みんな、俺は決めた。俺はこのまま先へ進む。正直言って、まだ不安な気持ちはある。だけど、ここでいつまでも頭を抱えていても、何も解決しないんだ。」
「その通りだぜ。ウジウジ悩んでたって始まらねえ。もしまたお前がおかしなマネをしそうになったら、今度は俺がぶん殴って正気に戻してやるからよ。心配すんな。」
バレットはパンチを浴びせるフリをした。
「エアリス、あの時俺、あんたに乱暴なことしたみたいだな。すまなかった。」
「気にしてないよ。でも、クラウドのパンチ、効いた〜。目の前を星が飛ぶって、ああいうこと言うんだね。初めて分かった。」
エアリスは冗談めかして言った。
「それで姉ちゃん、これから俺様達はどこへ行くんだ？燃料は入れたし、どこへでも行けるぜ。」
シドは言った。
「ホーリーを使うためには、ある特別な場所へ行かなきゃいけないの。私達が目指すのは、そこだよ。」
「ふ〜ん。で、どこでなんだ、そりゃ？」
「分からない。」
「おいおい、またかよ。おめえら、そればっかだな。」
シドは呆れたように笑った。
「あはっ、ゴメンね。でも、方向は分かるよ。ずっと海の向こう‥‥そう、北。北に求めるものがある。」
何かに呼ばれている――エアリスは黒マテリアの出現以来、ずっとそう感じていた。
そこに、何があるのかは分からない。しかし、古代種にまつわるものであることは確かだろう。また一つ、自分のルーツが明かされていく。そんな予感がした。
旅の準備を整え、ウータイを出ようとした彼らのもとに、ゴドーがやって来た。ゴドーはユフィに古びたノートを差し出した。
「これを持っていけ、ユフィ。」
「何これ？ずいぶん古ぼけたノートだね。どうせ餞別くれるならマテリアにしてよ。」
「バカもん、これは母さんのノートだ。究極のマテリアについて、母さんが調べたことが書いてある虎の巻だ。」
「そんなものがあったの！？全然知らなかったよ。」
ユフィはノートをひったくるようにして中身をめくった。
「究極のマテリアに関することを母さんはすべて書き記していたようだが、そのほとんどが単なる噂話か眉唾な話ばかりだったらしい。この中に書いてあることで、信用に足る情報はほんの少ししかない。しかし、何かの手がかりにはなるだろう。」
「どうしちゃったのさ、オヤジ？急にアタシのこと、応援するみたいなことしちゃって。」
「バカ言え。お前を応援する気などないわ。だが、わしは母さんを応援していた。それだけのことだ。」
ゴドーはふんと鼻を鳴らすと、町の方へスタスタと歩き去って行った。
「ヘンッ、意地っぱりオヤジめ。当分顔も見たくないねっ。」
その言葉とは裏腹に、ユフィは感激した表情でゴドーの後ろ姿を見送った。
「さあ、行こうか。」
「ほな、出発ですな。」
クラウドが出発を促した時、背後から聞き慣れた声がした。全員が振り返った。
「ケット・シー！」
彼らの後ろに、ケット・シーとデブモーグリのコンビが立っていた。
「あんた、どうしてここに？神殿に潰されてしまったはずじゃ‥‥」
クラウドは幽霊でも見ているような気持ちだった。
「はい。確かに潰れてしまいました。ケット・シー１号機は星になってしまいましたんや。悲しい話ですわ。」
ケット・シーは大げさに鼻をすすり上げた。
「１号機？」
「そうです。そやからボクは、ケット・シー２号機っちゅうことになります。でも前とまったく同じですから、同じように仲ようして下さい。‥‥みなさん、また目が点になってますなあ。ボクの体は作りモンなんやから、スペアの２体や３体や１０体はあっても、そう不思議がるこっちゃない思いますけど？」
「‥‥」
言われてみればそうだったが、神殿での彼の自己犠牲的な行為に感動すら覚えていたクラウド達にとっては、なんだか騙されたような心境だった。
「でも、私達がここにいるってよく分かったね？」
エアリスは不思議そうに訊いた。
「別に驚くことあらしまへん。発信器を辿って来ただけですから。」
ケット・シーはそう言うと、エアリスの服の襟元に手を伸ばし、小さな丸いボタン型の発信器を取って見せた。
「あ〜！もしてかして、占いの結果を教えてくれた時に取り付けたの！？」
「ご名答〜。ちなみにこれ、盗聴器にもなってるんですわ。そやから、これまでの事情も全部知ってます。ささ、早いとこ、北に向けて出発しましょ。レッツゴーや。」
ケット・シーはいつもの調子で、ニカッと笑った。
彼の抜け目なさとしたたかさには、クラウド達も苦笑するほかなかった。
北の大陸。そのほとんどが、一年中雪と氷に覆われた冬の大地。
前人未踏の未開の地がその大部分を占め、人が住んでいる町はこの広い大陸の中に数えるほどしかなかった。
北の大陸で数少ない町の一つボーンビレッジの海岸に、クラウド達は上陸した。
ボーンビレッジは数年前に出来たばかりの新しい町である。この場所で大量の化石が発掘され、そのあとに町が出来た。化石の宝庫としてその名は広まり、今では世界各地からたくさん人々がこの地へ発掘に訪れる。
「ここが、エアリスの探している場所なのか？」
クラウドはエアリスに向かって訊いた。
「ううん、違うよ。でも、近付いてるのは確か。この町の奥、もっと内陸にあるみたいな感じがする。」
「どうでもいいけどよ、寒くねえか？このままじゃ風邪ひいちまうぜ。」
言っているそばから、バレットは派手にくしゃみをした。
バレット以下彼らのほとんどが、この冬の気候にふさわしくない薄手の軽装だった。
「ここは別名氷の大地と呼ばれる場所だ。内陸へ行けばもっと寒くなる。」
寒さに震える彼らの中で、唯一マントをはおって暖かそうにしてるヴィンセントが言った。
「一人だけぬくぬくとしやがって、やな野郎だな。」
バレットはうらめしそうに、ジトッとヴィンセントを睨んだ。
ここより先へ進む前に、クラウド達はボーンビレッジの町で防寒着を買い込んだ。
寒さ対策を整えた彼らは、いよいよ町の奥へと向かった。
「この先だよ。」
エアリスの直感は、町の後ろに広がる森を行けと囁いていた。
「あんた達、眠りの森へ入るつもりかい？やめときなって。死んじまうぞ。」
森の手前にある発掘現場で、ブラシを手に化石にかかる土を払いのけていた男が、クラウド達に気付いて立ち上がった。
「そこは入った者を迷わせる樹海だ。迷ったら最後、二度と出て来れないぞ。だからその森は、死の眠りへと誘う眠りの森と呼ばれてるんだ。悪いことは言わないからやめときなって。」
その男だけでなく、まわりの他の人々も、そうだそうだと頷いていた。
「だいじょぶ。行けるよ。」
エアリスは確信に満ちて言った。
「ちゃんと招待されてるんだから、森が通してくれる。みんな、私について来て。」
緑濃い森は、深く深く彼らを飲み込んだ。茂る木の葉に遮られ、太陽が見えないため、どの方角に進んでいるのかまるで分からない。
しかしエアリスは、一度も立ち止まったりせずに、森を進んで行った。
エアリスの先導で森を抜けた一行は、不思議な谷へ出た。その谷には、草木の代わりにサンゴが生えていた。
赤や黄、青の色とりどりのサンゴに埋めつくされた谷の底に、何かが見えた。もやに霞んでよく見えないが、それは町のようだった。
「あの場所‥‥」
エアリスは自分でも気が付かないうちに、早足になった。谷底へ続く道を駆け下りる。その後を、仲間達が追う。
谷底へ降りると、町の全景がはっきりと見えた。サンゴに縁取られた道、貝殻のような形をした家屋、まるで海の底にいるような神秘的な町だった。
ここは世界にあるどの町とも違う特別な場所だと、この場に漂う空気からも感じられた。。
「古代種の都‥‥。ここは、古代種達が住んでいた町。」
町の入り口に立った時、エアリスは呆然と呟いた。
「エアリスが求めていた場所はここなんだな？」
クラウドは言った。
「うん。何かに呼ばれて、ここまで来たの。そうか‥‥古代種の都。そうだったんだ‥‥」
「人を迷わす眠りの森は、いわば古代種の都を守る結界のようなものだったんだね。」
レッドXIIIは言った。
「だから、古代種であるエアリスにしかあの森は通れなかったんだわ。」
ティファは納得した。
町の中を隈無く見て回りたい気持ちのエアリスだったが、そんな悠長なことをしている時間がないことも十分分かっていた。
エアリスはこの場所へ来た真の目的を果たすために、今はもう誰一人住人のいない町の中を通り抜け、奥を目指した。
小さな湖のほとりに、一際大きな貝殻の家があった。家の中は何もないがらんどうだったが、不思議なことに中央の床には半径１ｍほどの大きさの穴が空いており、そこに水が張ってあった。
エアリスは水の底をジッと眺めていたかと思うと、突然その中に入って行った。どんどん沈んで行き、頭まで見えなくなってしまった。
「お、おい！エアリス！」
クラウド達がうろたえていると、ひょいと水面にエアリスが顔を出した。
「おもしろーい！この水、ただの幻だよ。来て来て、この下に階段があるの！」
エアリスは楽しそうに手招きをして、再び下に潜って行った。
クラウド達はぽかんとした様子で、水面を見つめた。
彼女の言うとおり、幻の水面の下には螺旋状に連なる長い階段があり、ずっと下の方まで続いていた。そこはまるで、水の中を漂っているような不思議な空間だった。
螺旋階段を降りて辿り着いたところは、パティオ風の開けた場所だった。湖の上に作られたような場所で、足下からは静かな水のせせらぎが聞こえている。
広場の四隅には足場となる広めのスペースがあり、飛び石でそれぞれが繋がっていた。
広場の中心部分にも、同じように何もないスペースがあった。そこは他の場所より高くなっており、何か舞台のような趣があった。
エアリスは飛び石を軽やかな足取りで飛び歩き、中央のその場所へ渡った。下にいる仲間達を見下ろす。
「ここは外界から隔絶された空間。古代種が創り出した一種の異次元空間なの。星と対話するための場所。それが、この水の祭壇。ホーリーを呼ぶには、星の力が必要なの。星と語り、願いが星に届けば、ホーリーは現れる。白マテリアは星と人をつなぐための媒体なの。‥‥それじゃ、始めるね。」
エアリスはその場にひざまづき、目を閉じた。しかし、すぐに目を開き、迷い事があるように大きく息をついた。
「‥‥ホントのこと言うと、あまり自信ないの。この私に星と語り合うことなんて、出来るのかどうか。大見栄切ってみんなをここまで引っ張って来ておいて、結局何も出来ないんじゃないかって‥‥」
「やる前からそんな弱気でどうするんだよ。そんなのエアリスらしくないよ。オイラ達はエアリスを信じてる。だから、エアリスももっと自分を信じなよ。」
レッドXIIIは弱音を見せるエアリスを励ました。
「そうよ、エアリス。あなたなら出来るわ。でもそれは、エアリスが古代種だからとかそういう意味じゃない。エアリスだからこそ出来るって、私は信じてる。」
仲間達の力強い言葉とそれ以上に強いまなざしに、エアリスは勇気を与えられる思いがした。
「‥‥ありがとう。よーし、がんばるぞ！」
エアリスは両手で頬をピシャッと叩き、グッと力を入れると、胸の前で手を組み合わせた。
「顔叩いて気合い入れるやなんて、星と語り合うっちゅう神秘的なイメージとなんやズレますなあ。ま、エアリスさんらしい言うたらエアリスさんらしいですわ。その調子でがんばってや〜っ。」
ケット・シーは応援団の旗のように、メガホンを振り回した。
「俺達がここでウロチョロしていたらエアリスの祈りの邪魔になる。上で待っていよう。」
クラウドに促され、仲間達は螺旋階段へ向かった。
最後に広場をあとにしたクラウドは、祭壇のエアリスを振り返った。エアリスは完全に瞑想状態に入っているようで、微動だにしない。
エアリスが星との対話に入ってから、クラウド達はひたすら待つだけの状態が続いた。湖の岸辺にたむろし、ただ時が過ぎるのをぼんやりと待った。
「‥‥長えな。星と対話するってのは、どのくらいの時間がかかるもんなんだ？」
バレットは何も出来ずにジッと待っていることが、段々と苦痛になっていた。
「エアリスが声を聞こうとしている相手はこの星なんだよ？電話で友達と話すのとは訳が違うんだからね。そう簡単に出来ることじゃないよ。」
レッドXIIIは草の上に丸まって長期戦の構えでいた。その隣で、シドはグーグーとすでに高いびきである。
「エアリスが一生懸命がんばってるってのに、このお気楽居眠りオヤジが〜。鼻つまんじゃえっ。」
ユフィはシドの鼻頭をギュッとつかんだ。はね起きたシドが、「何しやがる、このクソガキ！」と怒鳴ったが、ユフィは悪びれた風もなくケラケラと笑った。
「エアリス、大丈夫かな。無理しなきゃいいけど‥‥」
ティファは気がかりそうに貝殻の家を振り返った。
「俺、エアリスの様子を見てくるよ。」
クラウドは立ち上がった。
「あ、私も行くわ。」
「ほな、ボクも。」
クラウドのあとを追って立ち上がろうとしたティファとケット・シーを、クラウドは制した。
「大勢で行くとエアリスの気が散る。ちょっとのぞいて見るだけだから、俺一人でいいよ。」
クラウドは一人で貝殻の家に戻って行った。
螺旋階段を降り、水の祭壇の間に入ったクラウドは、そっとエアリスの様子を伺った。エアリスはクラウド達が出て行った時と同じ姿勢のまま、ひざまづいていた。
彼女の周りにだけ、別の空気が渦巻いているようなそんな気がした。不思議なオーラに包まれ、そこだけが別世界のようだった。
彼女は星と話しているのだ――そう思った時、クラウドはたとえようもない感動を覚えた。
エアリスと星の対話を邪魔しないように階段へ戻りかけたクラウドは、急に足の力が抜けたように膝をついた。同時に、いつもの激しい頭痛に見舞われる。
――我々の邪魔をしようとは、困った娘だ。
「クソッ‥‥また‥‥」
クラウドは頭の中に響く声を、必死に拒もうとした。
――さあ、あの娘を‥‥。
耳を塞いでも、声は聞こえる。頭の痛みはますますひどくなり、何も考えられなくなる。気を失いそうだ。
しばらくして、何事もなかったようにクラウドは立ち上がった。水の祭壇にいるエアリスを見上げる。
その顔にはなんの感情もなかった。彼の魔晄の目だけが、いつになく異様な光を帯びていた。
クラウドは飛び石を渡り、水の祭壇のエアリスの元へ近付いた。
階段を上がってくるクラウドに気付かないのか、エアリスは依然として目を閉じたままだった。
エアリスの前に立ったクラウドは、長剣を抜き両手で握ると、それを高く振り上げた。
今にも剣を振り下ろそうとした瞬間、エアリスが目を開いた。さして驚いた様子もなく、目の前のクラウドを見上げる。
「クラウド、本当にそうしたいの？私を殺したい？違うよね。クラウドはそんな事しない。‥‥負けないで。」
クラウドの表情が変わった。初めてエアリスを見たように、目を瞬かせた。
「あ‥‥エアリス、俺は‥‥。クッ、奴め、俺に何をさせる気なんだ‥‥」
クラウドは振り上げた剣を下ろし、荒い息をついた。
「クラウド！エアリス！何があったの！？大丈夫！？」
「おい！２人とも！どうしたんだ！？」
見ると、バレット達が螺旋階段を駆け下りて来るところだった。
「クラウドさんの戻りが遅いんで、様子を見に来ましたんや。そしたらエアリスさんの前で剣を振り上げてるもんやから、もう仰天しましたわ。一体どないしたんです〜！？」
しんがりで降りてきたケット・シーは、あわを食ったように言った。
「だいじょぶ。なんでもないよ。なんでも――」
――飛べ！
「え？」
エアリスの脳裏に映像が浮かんだ。突き刺すように刀を構え、彼女の頭上から飛び降りてくるセフィロスの姿だった。
エアリスは無意識のうちに膝をついた中途半端な姿勢から、弾みをつけて横に倒れ込むように飛んだ。
次の瞬間、それまでエアリスがいた場所に、刀が鋭く突き刺さった。クラウドの長剣とは違う、細く長い刀身の刀だった。
「セフィロス‥‥」
突然のセフィロスの出現。だがエアリスは驚かなかった。やはり来たか、という気持ちだった。
セフィロスは仕損じたことに舌打ちし、すぐに二撃目を放った。エアリスめがけて横一文字に刀を払う。エアリスは自分でも驚くほどの反射神経で、床に這いつくばるように伏せ、紙一重でかわした。
すぐに立ち上がろうと手をついた時、バサッと髪の束が肩にかかった。かすめた剣先で、髪を結んでいたリボンが切れたらしい。
同時に、コツーンと何かが落ちた音がした。エアリスはハッとした。
振り返ると、白マテリアが床の上を跳ねていくところだった。普段結った髪の中に仕込んでいる白マテリアが、髪がほどけたせいで落ちたのだ。
白マテリアが床を打つ音は、まるで何かの楽器の音色のように心地いい響きがした。
「白マテリアが！」
エアリスは手を伸ばしたが、それから逃げるように白マテリアは弾み飛んでいった。
その白マテリアを、セフィロスが拾った。
「なるほど、これが白マテリアか。黒マテリアの対極にある聖なるマテリア‥‥」
白マテリアを握りしめ、セフィロスはニヤリと笑った。
「返して！」
エアリスは無謀にもセフィロスに飛びかかった。待っていたとばかりに、セフィロスが刀を振り上げる。
その時、銃声が轟き、セフィロスの手から刀が飛んだ。
ヴィンセントが撃った銃弾が刀をはね飛ばした。さらに立て続けに銃弾を放ち、セフィロスを牽制した。
「エアリス！」
駆け寄って来たティファはエアリスを引き寄せ、セフィロスから遠ざけた。
「うおおおーっ！くたばりやがれー！」
続いてやって来たバレットが、右腕の銃を乱射した。
セフィロスはシールドの魔法で銃弾を受け止めた。
「ファイガ！」
間を置かずに、レッドXIIIが炎の魔法を放った。セフィロスは冷気の魔法ブリザガでそれに対抗した。
「よっしゃっ！俺様も戦闘に参加するぜ！となりゃ、これだな。」
シドはポケットから無造作にダイナマイトを取り出した。
「シドさん！そんなん冗談やないで〜！みんな吹き飛んでしまいますがな！」
ケット・シーは悲鳴に似た叫び声を上げ、シドを止めた。
その間クラウドは、目の前の戦いが目に入っていない様子ででくの坊のように立ちすくんでいた。
「何やってんだ、クラウド！エアリスがやられるのを黙って見てる気かよ！」
バレットは怒鳴った。
「‥‥俺は何をしているんだ。」
クラウドは夢から覚めようとするように、何度も頭を振った。
「エアリス、怪我してるわ。大丈夫？」
ティファに言われるまで、エアリスは自分の腕から血が流れていることに気付かなかった。おそらく、セフィロスの一撃目をかわした時に傷付いたのだろう。
「こんなの平気。それより白マテリアが‥‥」
「メテオを阻むホーリーを呼ぶマテリア。セトラよ、これがお前の切り札なのだな。お前を始末するつもりでいたが、白マテリアが手に入った以上命だけは見逃してやろう。」
セフィロスは皮肉めいた笑みを浮かべ、エアリスを見た。
「ダメ！返して！」
「アタシにまかせろ！」
突如として叫んだユフィは、ニンジャのような身のこなしで水の祭壇に駆け昇った。セフィロスの脇を風のような素早さでサッと通り抜ける。
そして、手すりの上に飛び乗り、愉快そうな笑い声を上げた。
「見ろー！マテリアハンター究極奥義、カミカゼゲットの威力を！白マテリアいただきっ！」
ユフィはＶサインの指に挟んだマテリアを掲げた。
「さっすが〜！マテリアスリの名人や〜！」
ケット・シーは拍手した。
「スリじゃない！ハンターだっての！」
「ユ、ユフィ、でもそれ、違う‥‥」
エアリスは強ばった声で言った。
「違うって何がさ？‥‥ゲゲッ！」
改めてマテリアを見たユフィは、目玉が飛び出さんばかりに驚いた。彼女の手の中にあるのは、深い闇色をしたマテリアだった。
「わひょーっ！く、黒マテリア！？間違えたーっ！」
「ったく、何やってんだか‥‥」
レッドXIIIは呆れたように頭を振った。
「わ、わわわわっ！パス！」
黒マテリアを持て余したユフィは、祭壇の下にいるシドに向かってマテリアを投げつけた。
「うおっ！？てめえ、このクソガキ〜っ！んな物騒なもんよこすなーっ！ほれ、パス！」
黒マテリアを受け取ったシドは、隣にいたケット・シーにそれを押しつけた。
「ボクかてこんな怖いマテリア、持ちたないですわ〜！ええい、パスや！」
ケット・シーは今度はバレットに黒マテリアを投げた。
「バ、バカヤロー！ボール遊びしてるんじゃねえぞ！」
危うく黒マテリアを取り損ねそうになったバレットは、心臓をドキドキいわせた。
「お前達のお遊びの相手をしている暇はない。」
セフィロスはパッと姿を消したかと思うと、瞬時にユフィの横に移動した。ユフィを捕まえ、腕で首を締め上げた。
「さあ、黒マテリアを返せ。それとも、この娘の首の骨が折れるところを見たいか？」
「ユフィ！」
「くはっ、い、息が‥‥」
ユフィは懸命にもがくが、逃れることは出来ない。
「バレット、こっちにパス！」
エアリスはバレットに向かって手を挙げた。バレットは言われるままに黒マテリアを投げた。
「セフィロス！ユフィを離して！でないと、この黒マテリア壊すわよ！サンダガの魔法ならマテリアの一つくらい、簡単に粉々に出来るんだから！」
エアリスは黒マテリアと腕輪にはめられた雷のマテリアを突き出した。
２人はしばしの間睨み合った。
「‥‥フッ。お互いの切り札をお互いが持っているということか。今日のところはお前の勝ちだな。」
セフィロスはユフィを離した。
「黒マテリアは一時お前に預けよう。せいぜい大事に持っていることだ。そしてそれを持って、ここよりさらに北へ来い。私はそこで待っている‥‥」
落ちた刀を拾い上げ、セフィロスは宙に舞い上がった。そして、クラウドに目を向ける。
「主人の命令に逆らうとは、お前にはいささか失望したな。」
「主人だと‥‥？」
「人形は人形らしくすることだ。‥‥忘れるな。」
そのままさらに高く上昇し、姿を消した。
「ユフィ！しっかりしろ、おい！」
バレットは床に倒れて苦しそうに咳き込んでいるユフィを抱き起こした。
「ゲホッ、し、死ぬかと思ったよ‥‥」
息も絶え絶えなユフィに、レッドXIIIが回復魔法をかけた。
「エアリス、あなたも早く手当しなくちゃ。」
回復のマテリアを使おうとするティファを、エアリスは止めた。
「その前に、やらなきゃいけないことがあるの。」
エアリスは床の上に黒マテリアを置き、それに狙いを定めて雷の魔法を撃つ構えをとった。
「待ってよ、エアリス。それを壊しちゃう気？そんなことしたら、銀髪の兄ちゃんが持ち逃げしちゃった白マテリアと、交換出来なくなっちゃうよ？」
ケアルラの魔法によって回復したユフィは、立ち上がるとエアリスの元へ近付いた。
「いいの。これさえなくなれば、セフィロスはメテオを呼べないんだから。」
「でもさ、そうなったら白マテリアも二度と戻って来ないかもしんないよ？それでもいいの？母さんの大事な形見なんだろ？」
「‥‥」
エアリスは少しためらいを見せた。
「白マテリアを取り戻すまでは、そいつを持っておいた方が絶対いいって。もしそれをブッ壊したってことが奴に知れたら、腹いせに白マテリアまで壊されちゃうかもしんないじゃん。」
ユフィはエアリスを思い止まらせようと必死になって言った。
「もしかしてユフィ、エアリスのためにあんな無茶なことしたの？」
ティファはふと気付いて言った。
「‥‥アタシにも母さんいないから、エアリスの気持ちはよく分かるんだ。」
ユフィはわずかばかり寂しそうな表情になった。
「そうか‥‥。そうだね。ユフィの言うとおりよ、エアリス。まだ壊す必要はないわ。要はそれを、セフィロスに渡さなければいいんだから。取引の材料として今は持っておきましょうよ。みんなもそれでいいよね？」
ティファは仲間達を振り返った。エアリスとユフィの気持ちを汲んでか、誰も反対しなかった。
「‥‥みんな、ありがとう。ごめんね‥‥」
エアリスは小さく呟いた。
回復マテリアで応急手当を受けたエアリスは、ティファに支えられ水の祭壇を降りた。
クラウド一人だけが、祭壇の上に残っていた。
「何してんだ、クラウド。行くぞ。」
バレットの呼び声にも反応しない。心ここにあらずだった。
「人形‥‥？俺が、人形‥‥」
クラウドは手で顔を押さえて俯いた。
そんな彼を、仲間達は心配そうに見上げていた。