エルミナは、ダイニングボードの上に置かれている写真立てに手を伸ばした。そこには小さい女の子とエルミナが写っていた。
エルミナは写真を見ながら、思い出話を語った。
当時、彼女の夫はウータイという遠い異国に出征中だった。ある日、夫から休暇で帰ってくるという連絡を受け、エルミナは駅まで迎えに行った。しかし、いつまで待っても夫は現れなかった。
彼女はそれから毎日のように、夫の姿を求めて駅へ通うようになった。そして、そこでエアリスとその母と出会った。
「母親がひどく衰弱していてね、力尽きて倒れたんだよ。あの頃、戦争中はよくある風景だったね。医者のところへ連れて行こうとしたんだけど、もう手遅れだった。彼女は、イファルナさんはエアリスを守ってくれ、と言い残して亡くなった。私も夫は帰らず、子供もいない。そんな１人暮らしで寂しかったんだろうね。そのままエアリスを引き取ることにしたんだ。」
エルミナは写真の中のエアリスを、愛おしそうになでた。
「エアリスはすぐに私になついてくれたよ。明るくて元気のいい子だった。おしゃべりが大好きで、いろんなことを話してくれたよ。研究所みたいなところで長いこと生活していたこと、そこから母親とともに逃げ出したこと、それからこんなことも言ってたね。お母さんは星に還っただけだから寂しくない、とかいろいろ‥‥」
エルミナは家の階段に目をやった。そこからいつものように、エアリスが降りてくることを期待するように。
「ある日こんなことがあった。いつも階段を降りるときは、リズムを刻むような弾んだ足取りで降りてくる子が、その日はどうした訳か、やけに静かな足音だったんだよ‥‥」
小さいエアリスは、うつむき加減でエルミナの元へ近付いてきた。
「おはよう、エアリス。いつもお寝坊さんのくせして、今日はえらく早起きじゃないか。」
エアリスは黙って下を向いていた。
「どうしたんだい、エアリス？具合でも悪いのかい？」
エアリスは顔を上げた。瞳に悲痛の色をにじませている。
「お母さん、悲しまないでね‥‥。お母さんの大事な人が死んじゃったよ。心だけになって会いに来たけど、すぐに星へ還ってしまったの‥‥。」
エルミナはエアリスの言う大事な人が、彼女の夫であることに気付いた。あの人が死んだ‥‥？そんなことが‥‥あるはずがない。
エルミナは信じなかった。しかし、それから数日後、彼女の元に夫の死を知らせる通知が届いた。
「‥‥いろんな意味で、不思議な子だったよ。だけどそれでも、私達は仲良く幸せに暮らしていたんだ。奴らが来るまではね‥‥」
家に現れた男は、タークスのツォンと名乗った。
「我々神羅カンパニーは、ずっとエアリスを探していました。彼女は大切な子供です。我々に彼女を返して頂きたい。」
エルミナはキッチンからそのまま持ち出してきたフライパンを、ツォンに向かって突きつけた。
「何なんだい、あんた達！エアリスはかわいい私の子供だよ。この子を一体どうしようってんだい！」
「エアリスは失われた『古代種』の血を引く、唯１人の生き残りなのです。彼女は至上の幸福が満ちあふれる約束の土地へ、我々を導いてくれるのです。彼女の持つ力は世界中の人々に、幸せを与えることが出来るのです。」
「古代種‥‥？」
エルミナは、自分の背後に隠れているエアリスを見下ろした。
「違うもん！私、古代種なんかじゃない！」
エアリスはエルミナのスカートの裾を、ギュッと握りしめて叫んだ。
「だげどエアリス、君は時々、誰もいないのに声が聞こえたりする時があるだろう？」
ツォンはエアリスの視線と同じ高さにするために、身をかがめて訊いた。
エアリスはぶんぶんと頭を振った。
「そんなの知らない！聞いたことない！」
エアリスは断固として言い放つと、二階へと駆け上がっていった。
「‥‥あの子は必死になって否定していたけど、私もエアリスの不思議な力には薄々気付いていたよ。あの子が隠すから、知らないフリをしてたんだけれどね。」
エルミナは写真立てを元の位置に戻した。
「そんなに昔から神羅に追われていたのに、今までよく無事だったな。」
クラウドは言った。
「奴らはエアリスの協力が欲しかったから、手荒なマネは出来なかったんだろうね。」
「じゃあ、どうして今日は‥‥」
「小さな女の子と一緒に帰ってきたんだよ。その途中で神羅の奴らに見つかったらしくて、逃げ切れなかったんだろうね。その子の身の安全と引き替えに、自分から奴らの元へ行ったんだよ。」
「マリンだ‥‥。エアリスはマリンを守るために‥‥。すまねえ、その子は俺の娘なんだ。」
バレットはうなだれた。
「あんたが父親かい。何やってんだい、子供を放り出して。」
バレットは頭をこくこくと動かして何度も頷く。
「分かってる。分かってるさ。俺だってマリンのそばを片時だって離れたくねえ。だが、俺には星の命を守るって言う、やらなきゃならねえ大切なことがある。‥‥大切？ちくしょう、マリンのことだって大切だ。だが、このままじゃ星は死ぬ。だからって、星のためならマリンを放っといていいのか？俺は‥‥俺はよう‥‥」
バレットの大きな肩に、ティファはそっと手を置いた。
「マリンは優しい子よ。バレットの気持ちはちゃんと分かってくれてるわ。」
バレットはティファを見返り、もう一度頷いた。
エルミナはバレット達を見て、少し寂しげな微笑をもらした。
「あの子は二階にいるよ。早く会いに行っておやり。」
バレットは返事もせずに、一目散に二階へと駆け上がって行った。
「あんた達傷だらけじゃないか。こっちおいで。手当てしてあげるよ。」
エルミナは戸棚から応急キットを取り出した。
「ティファ、先に怪我の手当てしてもらえよ。俺はマリンの様子を見てくる。」
エルミナにティファをまかせ、クラウドは二階へ上がった。
マリンはエアリスの部屋にいた。バレットはその大きな腕で、力一杯マリンを抱きしめていた。
「マリン、よかった。無事で本当によかった‥‥」
「父ちゃん苦しいよ。お髭がチクチクするよ‥‥あ、クラウド。」
マリンは部屋に入ってきたクラウドに気付いた。
「マリン、無事だったんだな。怪我はないか？」
「うん、平気。でもお花のお姉ちゃんが‥‥。あたしのせいだよ。」
「マリンのせいじゃない。そんな顔するな。」
「だけど‥‥あ、クラウド。ほらこれ。」
マリンはテーブルの上に置いてある小さな花瓶を手に取った。
「クラウドがくれたお花。ちゃんと大事にしてるからね。」
「わざわざ持ち出してきたのか‥‥」
「だって残してきたりしたら、お花かわいそうだもん。お花のお姉ちゃんもね、あたしがお花を大事にしてること、喜んでくれたよ。この花、クラウドがお姉ちゃんから買ったんだってね。」
「ああ。そうだ。」
「クラウドがお花買ってくれたこと、すごく嬉しかったって言ってたよ。これはあたしのカンなんだけど、きっとお姉ちゃん、クラウドのこと好きなんだと思うな。」
マリンは目をパチクリさせているクラウドの顔を見上げ、にっこりと笑った。
「これからどうするつもりなんだ？」
バレットはさもその答えは分かっている、と言う口振りで訊いた。
「エアリスを助けに行く、だろ？クラウド。」
「ああ。」
「俺も行くぜ。エアリスはマリンの恩人だ。このまま放っとけるかよ。」
クラウドは首を振った。
「お前が今すべきことは、マリンのそばにいてやることだ。」
クラウドの言葉にバレットは一瞬詰まった。バレットはひざをつき、マリンと同じ目の高さで向き合った。
「マリン。父ちゃんはまた出かける。エアリスを助けに行くんだ。行かせてくれるよな？」
「当たり前でしょ。父ちゃんが行かないって言っても、あたしが追い出すからね。」
マリンは笑って、バレットの首っ玉にかじりついた。
「すまねえな、マリン。お前は父ちゃんにはもったいなくらいのいい子だ。」
バレットはマリンの頭を何度も何度もなでた。
「マリンはもうしばらくエアリスのおふくろさんに預かってもらうことにする。俺は行くぜ。エアリスを助けに！」
「私も行くわ。」
いつの間にか、ティファが部屋のドアのところに立っていた。
「神羅の本拠地へ乗り込むんだ。覚悟がいるぞ。」
クラウドは言った。
「分かってる。でもこのままにしておけないもの。エアリスを助けなきゃ！」
クラウドはバレットとティファの顔を交互に見比べた。２人の決意は固いようだった。
クラウドは頷いた。
「よし、行くぞ。零番街神羅本社へ！」
待ってろよ、エアリス！
神羅本社ビル６７階。研究用サンプル室。その中のガラス張りのサンプルポッドの一つに、エアリスは閉じこめられていた。
エアリスはひざを抱えて座り、ガラスの外で忙しそうに動き回る研究員達を、ぼんやりと見つめていた。
これから自分がどうなるのか、という不安はあまり感じていなかった。それよりも、クラウド達のことの方が何倍も心配だった。プレートの落下から逃げられたのだろうか。無事でいるのだろうか。
「きっと‥‥ううん、絶対だいじょぶ。クラウドはあれくらいのことで死んだりしない。」
エアリスは自分自身に言い聞かせるように呟いた。
エアリスのいるポッドに、白衣の男が近付いてきた。長い髪を無造作に束ねた痩せぎすで、ひどく神経質そうな感じの男だ。５０代半ばか後半くらいの年齢のようだが、実際はもう少し若いのかもしれない。そのやつれたような顔つきのせいで、実年齢より老けて見えているのかもしれなかった。
エアリスはその人物を知っていた。彼女が最も会いたくなかった人物。神羅カンパニー科学部門統括、宝条博士その人だった。
宝条はポッドのすぐ前で立ち止まり、しげしげとエアリスを見つめた。見せ物小屋の動物を見るような宝条の目つきが、エアリスは嫌でたまらなかった。
「サンプルのデータは取れたのか？」
宝条は近くにいる研究員に言った。
「はい。これが結果です。」
研究員から渡されたレポートを、宝条はざっと流し読みした。
「ふむ、この程度なのか。母親とはやはり違うな。まあ、貴重な古代種のサンプルが手に入ったのだから、贅沢は言えないが‥‥」
宝条がサンプルという言葉を使う度に、エアリスはカチンときた。すっくと立ち上がり、内側からバンッとガラス張りのポッドを叩いた。
「人のことサンプル呼ばわりするのはやめて！私にはエアリスっていう名前があるんだからね！」
宝条はエアリスの憤慨を気に止めた様子もなく、他のサンプルポッドの方へ歩き出した。
数歩歩いたところで、宝条は足を止めた。
「‥‥イファルナはどうしている？」
「お母さんのことは名前で呼ぶんだね。知らないの？もうずっと昔に死んじゃったよ。」
「そうか。」
宝条は相変わらず無表情のまま、その場を立ち去っていった。しかしエアリスは、そのときの宝条の顔に、ほんの一瞬悲しみの色を見たような気がした。
貴重な古代種のサンプルを失ったことが残念なのか、それとも純粋に母の死を悼んでいるのか、エアリスには判断がつかなかった。
エアリスは再び座り込み、ひざを抱えた。
そのとき、ふと視線を感じた。宝条や研究員達のように、自分のことを珍獣扱いの目で見るような視線とは違う感じのものだった。
エアリスはキョロキョロと辺りを見回した。しかし、それらしき人物の姿はなかった。気のせいかと思った時、唐突に視線が合った。エアリスを見つめていたのは人ではなかった。
エアリスのポッドから離れた場所にある別のポッドの中に、それはいた。
燃える炎のように赤い毛並みをした動物。ライオンやヒョウ、狼、虎などを掛け合わせて作られたような、エアリスが初めて見る動物である。
宝条が作り出した動物なのだろうか、と考えていると、赤い毛並みの動物が頭を小さく動かした。それはあたかも紳士が、「こんにちは、お嬢さん。」と、軽く会釈をしたような仕草だった。
なんなのだろう、あの動物は？エアリスはますます興味を引かれた。
「ねえ、あそこにいる赤い毛の動物は何？」
エアリスは通りかかった研究員に訊いた。研究員は実験サンプル風情が気安く声をかけるな、という冷ややかな視線を返し、足早に歩いて行った。
「何よ〜、サンプルが質問しちゃいけないって言うの？あったま来るなあ。」
エアリスは研究員の背に向かって舌を出した。
「あれはミッドガルの郊外で捕まえた絶滅寸前の非常に貴重な亜種生物。私達は便宜上、レッドXIIIと呼んでいる。」
別の研究員が、愛想のかけらもない言い方で教えてくれた。
「レッドXIIIか。それじゃ私のことはさしずめ『花売り１号』とでも呼ばれてるんだろうな。」
エアリスはヤケクソ気味に言いながら、もう一度赤い毛並みの動物――レッドXIIIを見た。レッドXIIIは背をこっちに向け、丸くなって寝そべっていた。
「正体不明の不思議な動物さんだけど、私と同じ囚われの身という境遇は間違いないみたいね。」
エアリスはレッドXIIIを真似するように、ころんと横になった。
同じ頃、神羅本社ビルの裏手にある、非常階段のドアが破られた。言うまでもなく、犯人はクラウド達である。
彼らがここにたどり着くまでの道のりは、決して容易くなかった。ミッドガル全体に非常厳戒態勢がしかれたため、地上とプレート街を結ぶ列車が全面ストップした。足を奪われた彼らは最後の手段として、七番街プレートが落ちたときに垂れ下がってきた、無数のケーブルワイヤーを使ってプレート街までよじ登った。
そして、街中のいたる所に配置された神羅兵の目をかすめながら、ようやくここまでたどり着いたのである。
「本社ビルの６０階以上からは、社員でも簡単には入れないらしいぜ。エアリスがいるとすれば、その階のどれかだな。しかしよう‥‥」
バレットは階段の一段目に足をかけ、上を見上げた。階段は遥か上まで延々と続いている。思わずめまいを覚えそうな高さである。
「マジにこいつを登るのかよ？正面から突っ込んで、エレベーターに乗った方が手間がなくていいんじゃねえか？」
「エアリスを助け出すまでは、出来るだけ騒ぎを起こしたくないんだ。」
クラウドは先頭を切って階段を駆け上がった。
「なるほどな。へへへ‥‥」
バレットはその後に続いた。
「何薄ら笑ってるんだよ。気持ち悪いな。」
「いや、あんたでも人を助けるために、一生懸命になることがあるんだな。」
「‥‥あまり無駄口を叩かない方がいい。すぐに息が切れるぞ。」
「ご親切にどうも。ケッ、どんなときでも皮肉屋ぶりは相変わらずだぜ。」
バレットはクラウドの後頭部に向かって、パンチを繰り出す真似をした。ティファは苦笑しながら、バレットの背をぽんぽんと叩いた。
数十分後、クラウド達は５９階まで上り詰めた。非常階段で行けるのはこの階までである。
クラウドは非常階段の出口のドアを細めに開け、外の様子を窺った。
「さて、ここから上の階にはどうやって上がるかな‥‥。おい、大丈夫か？」
バレットとティファは足腰ガクガクの状態で、階段にへたり込んでいた。
「ハアハア‥‥クラウド‥‥なんでそんなに平気な顔してるのよ‥‥フウ‥‥」
「ゼエゼエ‥‥ソルジャーってのは、実は機械で出来てんじゃねえのか‥‥」
「これからが本番なんだぞ。しっかりしろよ。‥‥しょうがないな。２人とも、ちょっとここで休んでろ。」
クラウドはスッとドアの外に滑り出た。
「ゼエゼエ‥‥どこ行ったんだ、あいつ？」
「ハアハア‥‥知らない‥‥」
数分後、クラウドが戻ってきた。
「この先はエレベーターで上がる。行くぞ。」
「この先ったって、上の階には入れねえじゃ――」
クラウドはトランプほどの大きさの、薄っぺらなカードを２人に見せた。
「カードキーだ。これで６９階まで上がれる。」
「どうやってそんな物を手に入れたの？」
「通りがかった神羅の課長から借りた。」
「借りた？クラウドまさか‥‥」
「二つ返事でオーケーしてくれないから、トイレに放り込んである。しばらくは目を覚まさないから大丈夫だ。さあ、行こう。」
クラウドはあっさりと言い、エレベーターのある方へ歩いていった。ティファとバレットはあっけにとられて、その後ろ姿を見送った。
エレベーターに乗り、差込口にカードキーを入れた。これで行き先階が自由に指定出来るようになる。しかし、肝心のエアリスがいる階が分からない。クラウド達は６０階から、シラミつぶしに探していくことにした。
一目を避けながらのこの作業は、かなり困難を極めた。それでも６６階まで上がって来れたのは比較的警備が手薄だったおかげと、カードキーさえ持っていればどんな怪しげな格好をしていても、咎め立てされることはなかった。
６６階にエレベーターが止まり、降りようとしたクラウドとバレットの腕をティファがつかまえ、再び中に引き込んだ。
「いきなりどうしたんだよ、ティファ。」
バレットは言った。
「シッ。ほら、あれ見て。」
ティファは、エレベーター前の廊下を歩いていく人物を指さした。
「あーっ！あのいかにも悪人面した野郎はハイデッカーじゃねえか！」
「バレット、静かに！」
ハイデッカーがこちらを向いたので、ティファは慌ててエレベーターの閉ボタンを押した。
「あんちきしょうが七番街プレートを落としやがったんだぜ！うおおおっ！絶対許せねえ！宇宙の果てまでぶっ飛ばしてやる！」
エレベーターから飛び出そうとするバレットを、ティファは必死に押しとどめた。
「落ち着いて、バレット！気持ちは分かるけど、ハイデッカーをボコボコにしても意味ないわ。プレート落としの実行を決定したのは、きっとプレジデント神羅よ。ハイデッカーは単なる実行犯の親玉に過ぎないんだから。」
「だ、だけどよう、ティファ‥‥」
バレットはそう単純には割り切れないようである。
「ティファの言うとおりだ。それに奴はエアリスをさらったタークスの上司でもあるんだ。奴の後をつければ、エアリスの居場所が分かるかもしれない。」
頭に血が昇っているバレットをなだめ、クラウド達はハイデッカーの後を追った。
ハイデッカーはフロアの中心にある大会議室へと入っていった。その後も、数人の男女がやって来て次々と部屋の中に入った。そして最後に現れたのは、プレジデント神羅だった。
「どうやら重役会議でも始まるようだ。なんとかもぐり込めないかな。中に入れないまでも、話が聞ければ‥‥」
クラウドは思案をめぐらせ、会議室とは逆の方へ歩き出した。
「どこに行くんだよ、クラウド？」
「トイレだ。」
「トイレ？こんなときに用足しかよ。あきれた奴だぜ。」
バレットはやれやれと頭を振った。
「わ、私ここで待ってるね。」
ティファは苦笑いしながら言った。
「何言ってるんだ。違うよ。いいから来い。」
クラウドは、バレットとティファを男子用トイレの中に引き入れた。
クラウドはトイレの一つに入ると、便座に登り天井に付いている通風口の格子窓を押し上げた。
「壁に耳あり、通風口に目あり、だな。」
クラウドは、身軽な動きで通風口の中へ入っていった。
「やっぱりあきれた奴だぜ、まったくよ。」
バレットはどことなく楽しそうに言うと、クラウドの後に続いて通風口の中にその巨体を押し込んだ。
クラウド達は通風口の中を、ほふく前進で大会議室のある方向へ進んでいった。近付くにつれ、人の話し声が聞こえてきた。３人はそれぞれ別の格子窓から、会議室の中の様子を窺った。
プレジデント神羅を筆頭とする５人の男女が、楕円形の会議用デスクの席に着いていた。プレジデント神羅が一番上座に座り、その左手にハイデッカー、その隣りに少し頭の禿げ上がったかなり太り気味の中年男性、プレジデントの右手には、この場にあまり似つかわしくないきらびやかな服装をした派手なメイクの女性、その隣りに真面目そうな典型的サラリーマン神羅の男性が座っていた。
バレットはヒューとかすれた口笛を吹いた。
「そうそうたるメンツだな。プレジデントにハイデッカー、それにあの女は兵器開発部門統括のスカーレットだな。あとの２人は誰だ？」
「ハイデッカーの隣りの太った男の人が、宇宙開発部門統括のパルマー。スカーレットの隣でしゃべっているのが、都市開発部門統括のリーブよ。」
ティファはひそひそ声で説明した。
「ずいぶん詳しいんだな。」
クラウドは意外そうに言った。
「だってこれに書いてあるんだもの。」
ティファはＡ４サイズの冊子を見せた。
「ビジター用の神羅のパンフレット。６２階の資料室に山積みしてあったから、一部もらってきたの。」
表紙には「ウェルカム 神羅カンパニー」と書かれていた。
都市開発部門統括のリーブは、会議の列席者達に向かって一生懸命話をしていた。
「――続きまして、今回の七番街プレート落下による被害状況がまとまりましたので報告します。七番街における居住区・商業区・工場区共に全壊。それに伴い、ミッドガル七番線が全面不通。死者・行方不明者数はプレート街・スラム街合わせておよそ――」
「リーブ君、今さらそんな数字を聞いても仕方ないだろう。それより我が社の損害は、最終的にどれくらいの額になるのかね。」
プレジデント神羅に遮られたリーブは、わずかばかり苦々しい表情になったが、すぐに平静を装った。
「七番街と隣接する六番街、八番街の一部にも被害が出ていますので、それらも含めて被害総額は１００億ギルはくだらないかと思われます。さらに七番街の再建費用を見積もりますと――」
「再建はしない。」
「は？」
リーブはひどく間抜けな顔で聞き返した。
「七番街プレートの再建はしない。あのまま放っておく。」
「し、しかしそれでは‥‥」
「その代わり、棚上げになっていたネオ・ミッドガル計画を再開する。」
リーブだけでなく、会議の出席者全員が色めきたった。
「では古代種が‥‥」
「うむ。『約束の地』はまもなく我々の物になるだろう。それと、来月からの各地区の魔晄料金を１５％値上げしたまえ。」
「ですがプレジデント、これ以上の魔晄料金の増額は住民の不満を招くことに‥‥」
「それなら心配ない。愚鈍な住民達は、これからますます我が神羅カンパニーに信頼を寄せることになるだろう。」
「ガハハハッ！なにせ憎むべきテロリスト共の魔の手から、住民を救ったのは我々神羅ですからな！」
ハイデッカーはふんぞり返って大笑いした。
「くそっ、相変わらずやることが汚ねえぜ‥‥」
バレットは悔しそうにギリギリと歯ぎしりした。
神羅はマスコミに向けて、七番街プレート落下の犯人はアバランチであると発表していた。当の神羅はいち早く被害に遭った住民の救助にあたり、世間に対する株を上げていた。
「値上げ値上げ！いいないいな〜！ぜひ我が宇宙開発部門に追加予算を〜！」
パルマーはまるでおもちゃをねだる子供のように、甘えた声で言った。その様子からは、とても一セクションを任されているような人物には見えない。
「料金値上げ分の差益はリーブ君の都市開発部門と、スカーレット君の兵器開発部門で分配してくれたまえ。」
プレジデント神羅は、パルマーの要望などまるで無視して言った。
「うひょ〜。いいないいな〜。」
パルマーは、うらやましそうにリーブとスカーレットを見た。
その時、会議室のドアが開いて白衣姿の男が入ってきた。男はリーブの隣の席に腰を下ろした。
「おい、ティファ。ありゃ誰だ？」
バレットは訊いた。
「ええと、科学部門統括の宝条博士って人よ。」
ティファはパンフレットの顔写真と見比べながら言った。
「宝条君、どうかね。古代種の娘の様子は？」
プレジデント神羅は、彼が現れるのを待ちかねていたように尋ねた。
「母親イファルナとの比較試験中だが、やはりサンプルとしては劣るな。現段階ですでに１８％の相違が見られる。あのサンプルは所詮、混血種。純血種の母親とは違うと言うことだ。」
「『約束の地』はどうなる？計画に支障はないのかね？」
「そのつもりだ。それと、一つおもしろい実験をしてみようと思っている。」
「実験？何かね、それは？」
「もっと生命力に富み、長命な古代種を作り出すのだ。」
宝条はメガネを外し、ハンカチで曇りを拭いた。
「母は強く、そして‥‥弱みを持つ。クックックッ‥‥」
宝条はうめき声ともとれる笑い声を発した。隣に座っているリーブは、薄気味悪そうな目で宝条を見た。
その後会議は、各部署のありきたりな業務報告の後、解散した。
部屋から出ていこうとするリーブを、スカーレットが呼び止めた。
「リーブ、差益の分配は私のところが７、あんたのところが３でいいわね。」
「ちょっと待て。なんでそうなるんだ？プレジデントは二つの部署で分配しろと‥‥」
「均等に、とは言わなかったわよ。兵器開発には金がいるのよ。いくらあっても足りないくらいにね。じゃ、そういうことでいいわね。」
スカーレットは一方的に言うと、さっさと部屋から出ていった。
残されたリーブは憮然とした面もちで、その後に続いた。
全員が立ち去ったのを確認すると、クラウド達は通風口から会議室の床に飛び降りた。
「宝条って奴がさっき話してたのは、エアリスのことだよな？」
バレットは言った。
「多分な。後をつけよう。」
クラウド達は宝条の後を追って、６７階へと上がった。
会議が終わった後、リーブは自分の部屋に戻る気にならず６１階のリフレッシュフロアにやって来た。ここは社員のためのいわゆる憩いの場で、小さな噴水があったり花や草木が植えられりとちょっとしたパティオになっている。
リーブは窓の外の夜景を眺めながら、ぼんやりと煙草を吸った。
「‥‥なんやねん、まったく。」
リーブはため息と共に呟いた。
「『そんな数字』てなんやねん。『聞いても仕方ない』やて？自分らが殺した人の数なんやで。ちゃんと心に刻み込めちゅうねん‥‥なんて、あの人らに言うても馬の耳になんとか、やろな‥‥」
彼が独り言を言うときは、無意識の内に郷里訛りが出る。リーブはもう一度大きくため息をついた。
「元気ないですね。リーブさん。」
ポンと肩を叩かれ、リーブは振り返った。顔見知りの企画開発部の社員だった。
「幹部会議だったんでしょう？どうりで疲れた顔してると思いましたよ。あのアクの強い連中と一緒じゃ神経すり減りますよねえ。」
「ははは。そんなことはないけど‥‥」
リーブはうつろな笑い方をした。
「トップ５の中でまともなのはリーブさんだけですよ。あとはみんな、揃いも揃って性格破綻者ばかりですからね。普通の神経では付き合い切れない連中ですよ。」
神羅社員は平然と最上級幹部達――ハイデッカー、スカーレット、リーブ、パルマー、宝条の５人のことを、神羅社員達はトップ５と呼んでいた――をこき下ろした。
リーブは相槌を打ちかねて、困ったように笑っていた。
「おっと、別にトップ５の悪口を言いに来たんじゃないんですよ。とうとう出来上がったんですよ、リーブさん。例のあれが。」
「あれと言うと、君が熱心に研究開発していたトイザウルスのことかい？」
「そうですそうです。遠隔操作可能な高性能ロボット、トイザウルスです！見る、聞く、話すことはもちろん、操縦者の思考パターンや行動パターンをインプットすることによって、自動操縦も出来るという優れものです。見て下さい。これが記念すべき１号機ですよ。」
神羅社員は我が子をひけらかすように、自慢げに写真を見せた。
熊とたぬきとアライグマを足して３で割ったような、ずんぐりむっくりとした大きな白い動物。その動物の背には、巨体に似合わない小さなピンクの羽がついていた。そしてその動物の上には、メガホンを持ったおどけた雰囲気の黒猫が乗っている。
「黒猫の下にいるこれは、おとぎ話によく出てくるモーグリという妖精だね。」
リーブはモーグリの特徴とも言える、ピンクの小さな羽を指さした。
「子供の頃からモーグリが大好きだったんですよ。こいつはモーグリの中でもデブモーグリと呼ばれる種類なんです。こいつらは２匹で一体でして、上の黒猫が操縦者の目や耳や口となり、下のデブモーグリが移動、行動といったアクティブな面を補うんです。長い期間がかかりましたが、ついに完成まで漕ぎ着けました。」
神羅社員は満面の笑みを浮かべている。
「やったじゃないか。おめでとう。」
リーブは彼をねぎらうように、ぽんと背中を叩いた。
「ただし、まだ正式名称が決定していないんですよ。いろいろと案は出ているんですが、どれもいまいちピンと来なくて。リーブさん、何かいい名前はありませんか？」
「私は建築屋だよ。そういうことは苦手だよ。」
リーブは苦笑しながら顔の前で手を振ったが、その手がピタッと止まった。
「今、一つだけ思い浮かんだよ。私の故郷の古い民話に出てくる猫の妖精の名前なんだが‥‥」
「なんて名前なんです？」
「ケット・シー、と言うのはどうだろう。」
「ケット・シー、ですか。いいですね。不思議な感じの響きがあって、すごくいいですよ。早速、部の連中と話し合ってみます！」
神羅社員は挨拶もそこそこに駆け出して行った。
リーブは社員の後ろ姿を微笑ましそうに見送った。彼の仕事に対する熱意がひしひしと伝わってくる。
自分にもあんな頃があった。街を創ることに意欲を燃やしていたあの頃の情熱。いつの間に失ってしまったのだろうか。
リーブは吸い尽くした煙草を吸い殻入れに捨てると、重い足取りで自分の部屋へと戻って行った。
宝条はサンプルポッドの前に立っていた。レッドXIIIと呼ばれる赤い毛の動物が入ったポッドである。
「私のかわいいサンプルよ‥‥」
宝条は例の気味の悪い笑い声をもらしながら、ポッドの表面をなでた。
「今日の実験サンプルはそいつですか？」
研究員が訊いた。
「ああ。上の階へ上げてくれ。楽しい実験の始まりだよ。クックックッ‥‥」
宝条はゾクゾクするような期待感を全身にまとわせ、６８階へ通じる階段を上がっていった。
研究員達がサンプル室から出ていったのを見届けると、クラウド達はひそんでいた物陰から出てきた。
ティファは宝条が眺めていたレッドXIIIのポッドに近付いた。レッドXIIIはティファに興味を示した様子もなく、ただあくびをしただけだった。
「私のかわいいサンプルよ‥‥か。生物実験に使われるのかな？」
「だろうな。あの薄気味悪い科学者野郎のこった。どんな実験に使われるのやら、こいつもかわいそうなヤツだぜ。」
バレットは言った。
「かわいいサンプルよ‥‥？」
クラウドはティファが繰り返した宝条のセリフに、奇妙な感覚を覚えた。初めて聞いたフレーズのはずなのにもう何百回となく聞いたような、言葉のデジャヴのようなものを感じた。
こめかみのあたりがズキズキと疼きだし、クラウドは手で押さえた。ふと、何かを感じて振り返る。誰かに呼ばれたような気がしたのだ。
サンプル室の奥に、一際頑丈な作りのドアが見えた。クラウドは吸い寄せられるように、そのドアへと近付いていった。ドアが近付くにつれ、鼓動が激しくなってくる。
厳重にロックされた金属製の分厚い扉だった。扉には丸い小さな窓が付いており、そこから中の様子を見ることが出来た。
クラウドは窓を覗いた。
扉の中は小さな部屋になっていた。その部屋にあるのはただ一つ、小さめのサンプルポッドだけだった。その中に、それはいた。
「‥‥ジェ‥‥ノ‥‥バ？」
クラウドは初めて言葉をしゃべり始めた赤ん坊のように、たどたどしく呟いた。
化学溶液に満たされたポッドの中には、女性らしい首のない体が入っていた。
いや、これは人なのだろうか。肌の色、質感が人間のそれとはまるで違う。蒼ざめた月のように冷えたブルーの肌、マネキンのようにすべすべした肌質。すべてが作り物のようだった。実験のためのものだろうか、体中にたくさんのチューブがつなげられていた。
キーンという耳鳴りがクラウドを襲った。頭痛がさらに激しくなる。クラウドは頭を抱えて倒れ込んだ。
「クラウド！」
ティファが駆け寄り、クラウドの上半身を抱きかかえた。
「ジェノバ‥‥セフィロス‥‥。そうか、ここに運んだのか‥‥」
クラウドは苦しい息づかいで、うわごとのように言った。
「どうしたんだよ、クラウド！？」
バレットはクラウドの急な変化に戸惑っている。
「見たか？動いている。生きてるのか‥‥？」
「見たって何を？」
バレットは扉の窓を覗いた。
「なんだこりゃ？薄気味わりいな。これもあの宝条って奴のコレクションか？胸クソ悪い。こんなもんほっといて、早く行こうぜ。」
バレットはクラウドを引き起こした。
「大丈夫、クラウド？」
ティファは心配そうな顔で訊いた。
「ああ。すまない。もう大丈夫だ。宝条はあの階段からさらに上の階へ上がったんだったな。急ごう！」
クラウドは走り出した。
６８階の研究室は下の雑然としたサンプル室とは違い、部屋の中央に大きなサンプルポッドが設置されただけの、広々とした空間だった。
ポッドの前には宝条が立っており、その中にエアリスがいた。
「エアリス！」
クラウドは叫んだ。エアリスがこちらを見る。
「クラウド！」
エアリスは自分が置かれている状況にも関わらず、とても嬉しそうな笑顔を見せた。
「エアリス？ああ、この古代種の名前だったな。なんだね、君達は？知り合いかね？」
宝条は突然の侵入者にさして驚きもせずに、のんびりと訊いた。
「エアリスを返してもらいに来た！」
「‥‥部外者か。」
「あのな〜、見りゃ分かるだろ！」
バレットはどこに目を付けてるんだ、と言いたげに叫んだ。
「世の中にはどうでもいいことが多くてな。残念だが、君達の願いは叶えられんよ。これから丁度、実験を開始するところなのだ。おい、サンプル投入開始だ。」
宝条はインターホンで、制御室の研究員に指示を出した。
ポッドの中にはせり上がり式のエレベーターがあり、それが動き出した。エレベーターに乗って現れたのは、レッドXIIIだった。
「エアリスに何をする気だ！？」
クラウドは激しい声で怒鳴った。
「滅びゆく種族に愛の手を。どちらも絶滅間近だ。ならばいっそ、二つの種族をかけ合わせ、新しい生物を誕生させるのだよ。」
「何考えてるの！あなた頭がおかしいわ！」
ティファは握り拳を作り、怒りを露にした。
「どうしてかね？我々が手を貸さねば、この種の生物は滅んでしまうのだよ。これはいわばボランティアだ。」
「生物なんてひどいわ！エアリスは人間なのよ！」
「人間も生物の一種にすぎない。人間だけが特別な存在だと思う方が間違っているのだ。さあ、少し静かにしてもらえないか。せっかくの実験を観察する暇がなくなってしまう。」
宝条はポッドに向き直った。目を輝かせている。
実験ポッドに投入されたレッドXIIIは、投げ込まれた新たな環境を調べるように、クンクンと匂いをかぎ回った。
エアリスはやや緊張していたが、それほど危険は感じていなかった。サンプル室で目が合った時の印象から、彼が獰猛な動物ではないという確信があった。
「ええい！このイカレ科学者とゴチャゴチャ話してても埒が明かねえ！みんな、下がってろ！」
バレットは右腕に装着された銃を構え、ポッドに向かってありったけの銃弾を撃ち込んだ。しかし、ポッドにはかすかなヒビが入っただけだった。
「なにい！？」
「クァックァックァッ。無意味なことをするものだな。このポッドは強化ガラスで出来ている。ロケット砲にも耐えられるのだよ。」
宝条は嘲るように笑った。
クラウドは背に背負った長剣を抜くと、ポッドを横一文字に斬りつけた。さらにきめ細かなヒビが入るが、破るには至らない。
「無駄だと言うのに、悪あがきをするものだ。」
宝条はやれやれと首を振った。
「さて、それはどうかな？」
バリーンッという激しい音と共にポッドが割れ、中からレッドXIIIが飛び出した。
「たとえ強化ガラスと言えども、あれだけヒビだらけになっていれば、私の体当たり一つで楽に壊せる。」
レッドXIIIはブルブルと身を震わせ、毛に付いたガラスの破片を落とした。
「しゃ、しゃべった‥‥！」
ティファはあんぐりと口を開けた。クラウドやバレットの表情も、同じようなものだった。
「おしゃべりなら後でいくらでも付き合ってやるよ、お嬢さん。今はそれより‥‥」
レッドXIIIは宝条に近付いた。
「この男の始末をどうするかだな。」
宝条はジリジリと後ずさり、壁際に追いつめられた。
「エアリス、大丈夫か？」
クラウドは、ポッドの中で座り込んでいるエアリスに手を貸した。
「うん。だいじょぶ。ありがと、クラウド。それにティファ、バレット。みんな来てくれたのね。」
「当たり前でしょ。友達だもの。エアリスが無事で本当に良かった。」
ティファはほっとしていた。
「私にも選ぶ権利はある。魅力的なお嬢さんだとは思うが、二本足は好みではなくてね。」
レッドXIIIは言った。
「なんなんだ、お前は？」
バレットはこの場にいる全員が、尋ねたいと思っている質問を投げかけた。
「もっともな問いだな。しかし、非常に答え難い問いでもある。見ての通り、私はこういう存在だよ。」
レッドXIIIの哲学的な答えに、クラウド達は虚を突かれたようにポカンとしている。
「宝条は私をレッドXIIIと名付けた。私にとっては無意味な名前だが、そう呼びたければそうするといい。」
「お、おう。よろしくな。とにかくエアリスを無事に取り戻したんだ。もうこんな場所に用はねえ。とっとズラかろうぜ。」
バレットは気を取り直して言った。
「待って。その前に落とし前つけなきゃ。」
エアリスはレッドXIIIと一緒になって、宝条に詰め寄った。
「よくも人のこと、モルモットみたいに扱ってくれたわね。ゲンコツ一発くらいじゃすまないんだから！」
「私に手を出すことは出来ないぞ。論理的に考えても無理だな。」
「あらそう？試してみる？」
「残念だがそこまでだ、エアリス。」
研究室のドアが開いて、ツォンが入ってきた。その隣にはやはりタークスらしいスキンヘッドの男と、数人のソルジャー部隊がいた。
「これだけ派手な騒ぎを起こしておいて、無事に逃げられると思う方がどうかしているのだよ、諸君。」
宝条はエアリスとレッドXIIIの間を通り抜け、ツォン達の方へ歩いて行った。
「後はまかせる。」
宝条はチラッとクラウド達を振り返り、クックックッと笑いながら部屋から出て行った。
「ルード、奴らに手錠をかけろ。」
ツォンはスキンヘッドの男に指示した。
「さあ、来てもらおうか。プレジデント神羅が君達に会いたいそうだ。」
武器を取り上げられ手錠をかけられたクラウド達は、７０階のプレジデント神羅の部屋へと連行された。