「おお!ここにゃここにゃ!」
 ニキータが急に走り出した。それを見てバドが呼びかける。
「どうしたんだよ?マチルダがいたのか?」
「着いたにゃ。草ムシの獲れる滝にゃ。オイラここに用があったにゃ。」
 ニキータはいそいそと草ムシ獲りを始めた。
「あのな〜、マチルダ捜索はどうすんだよ。」
「あとはあんたらにまかせるにゃ。な〜に、リーディスがいるからなんとかなるにゃ。」
「やっぱあんたって血も涙もない商売人だよな。年寄りがさらわれて行方不明になってるって言うのに、そっちのけで草ムシかよ。」
 バドは呆れ返って言ったが、マチルダは厳密に言えば年寄りではない。外見こそ老婆だが、中身はダナエと同じ二十代前半のうら若き女性なのだ。
 それはともかく、草ムシ探しに夢中になっているニキータはとりあえず放っておくことにした。テコでもこの場を動きそうにないからだ。
「わあ、きれいな場所。滝の水がキラキラしてとってもきれいね、お姉さま。」
 真珠姫は両手で水をすくい、無邪気に喜んでいる。こちらもピクニック気分だが、彼女の場合悪気はなく完全な天然なのだからいたしかたない。
「リーディス!」
 私達が来た方向とは反対側からダナエがやって来た。彼女もこの付近を捜索していたようだ。
「マチルダは!?‥‥そっちも見つけていないようね。」
「あったにゃ!ゲットにゃ〜!」
「草ムシは見つけたようだ。」
「草ムシ?」
 ダナエは怪訝そうに首を傾げた。私はこっちの話だという意味で肩をすくめて見せた。
 水辺の岩に座り込んだダナエは、両手で顔を覆った。
「マチルダ‥‥どこへ行ってしまったの?ただでさえ体が弱っているのに‥‥」
「あ、あの‥‥元気出して下さい。きっとマチルダさんは無事に見つかります。」
 落ち込むダナエを元気づけようとしたのは真珠姫だった。
「あなたは?リーディスの友達?」
「真珠です。初めまして。あの、私あまり役には立てないかもしれないけど、一生懸命お手伝いしますから、だから元気出して下さい。」
 ダナエの表情に少しだけ笑顔が戻った。
「ありがとう、真珠さん。心強いわ。」
「真珠でいいです。」
「分かったわ。私のことはダナエと呼んでね。」
 ダナエと真珠姫は握手した。
「なんか友情が育まれてるって感じでいいですねえ、師匠。それに比べて向こうは‥‥」
 バドがちらりとニキータを見やると、彼は相変わらず、「草ムシ30匹目ゲットにゃ〜!」と言っては狂喜している。
 ダナエは再び立ち上がったが、これ以上どこを探せばいいのか彼女にも私達にも皆目見当がつかない。修験道の洞窟はあらかた見て回ったはずだ。それともどこかに見落としでもあったのだろうか。
 その時、一陣の風が私達の間を吹き抜けていった。不思議なことだが、私はその風に頬をなでられた瞬間、何か知性というか意志のようなものを感じた。
「あ‥‥ああーっ!」
 バドが大声で叫んだ。何事かと彼が見上げる方に目を向けると、そこには名高い賢人の1人が宙を舞っていた。
「風の王セルヴァ!」
「その通り。私はセルヴァ。風と自由の心を導く者。」
 風の王セルヴァは穏やかな微笑みをたたえて私達を見下ろしていた。
「やっぱり!すげー!ホントに会えた!」
「賢人セルヴァ‥‥」
 ダナエはセルヴァの元へ駆け寄った。
「セルヴァ様、聞いて下さい!私の親友マチルダが悪しき者に連れ去られてしまいました。彼女はどこにいるのでしょう!?お願いです、教えて下さい!」
 ダナエは必死の表情でセルヴァに懇願した。
「すまない。マチルダがどこにいるのか、私には分からないよ。」
「そんな‥‥」
「悲しい顔をしないで。彼女の居場所は分からないけど、彼女を見つけてくれる者なら分かる。白い煌めきを抱く者が、きっとマチルダを見つけてくれるよ。」
「白い煌めき‥‥?」
 ダナエがオウム返しに呟いた時には、すでにセルヴァの姿は消えていた。
「うわ、早っ。もう行っちゃったよ、さっすが風の王って、俺まだ質問してなかったに〜!」
 バドは悔しがって地団駄を踏んだ。
「今のはどういう意味?リーディス、あなたには分かる?」
 ダナエは私の方を振り返って訊いた。白い煌めき。その言葉から連想されるものが一つだけある。
「賢人が言ったのはきっと珠魅のことにゃ。煌めきを抱く者、つまり胸に宝石の核を持つ珠魅にゃ。」
 伊達に広い世界で商いをしていないニキータは、さすがに博識だった。私もその意見に同感だ。
 さらに賢人は白い煌めきと言った。この場にいる珠魅は真珠姫ただ1人。そして彼女の核は白真珠。
「わ、私?」
 真珠姫は自分の胸の核に手を当てオロオロしている。
「そっか、セルヴァが言ったのは真珠姫のことなんだ。」
「はっきり名指しすればいいにゃ。やっぱり賢人はすかしてるにゃ。」
 バドはポンと手を叩き、ニキータはフンと鼻を鳴らした。
「真珠姫、何か心当たりはあるか?」
 私が尋ねると、真珠姫は困り果てように首を振った。
「ないわ、お姉さま。どうして賢人様はあんなことを言ったのかしら。」
「真珠!マチルダはどこにいるの?お願い、教えて!」
 ダナエは真珠姫の当惑振りに気付いた風もなく、激しい口調で詰め寄った。
「あ、あの、そんなこと言われても、私、どうしたらいいか‥‥」
 ダナエの剣幕に恐れをなしたのか、真珠姫は思わずあとずさった。
 しかし、運悪くそのすぐ後ろが崖だったため、足を踏み外した真珠姫はバランスを崩してそこから落ちた。
「きゃあ!」
「真珠姫!」
 私は反射的に手を伸ばして真珠姫の手をつかんだが、支えきれず一緒に落ちてしまった。
「師匠!」
「リーディス!」
驚いたバドとダナエが崖下を覗き込む。
 私はとっさに剣を崖に突き刺し、落下を免れていた。真珠姫を小脇に抱えていても、スウィフト隕石製の片手剣は見事にその重量に耐えている。
「師匠、さっすが!」
「よかった‥‥」
「人騒がせにゃ。」
 私と真珠姫はダナエ達の助けを借りて崖から這い上がった。
「2人とも大丈夫?ごめんなさい、真珠。私があなたを怯えさせてしまったから‥‥」
「ううん、ダナエのせいじゃない。私がそそっかしいからいけないの。」
 真珠姫は服についたホコリを払いながら、なんでもないという風に笑って見せた。
「ありがとう、お姉さま。」
 礼を言う真珠姫に、私は気にするなという意味で軽く手を振った。
「けどさ、これでまた一から捜索のやりなおしだね。」
「賢人の言うことなんてアテにしない方がいいにゃ。」
「でも、賢人がでたらめなことを言うなんて思えないわ。」
「あ、あの‥‥」
 真珠姫がおずおずと言った。
「この下の方にお部屋があるのね。」
「部屋?」
「うん。さっきお姉さまに抱きかかえられてる時、壁に明かり取り窓みたいな小さな穴があいてるのを見つけたの。だから、こんなところにも部屋があるんだなあって。」
「明かり取り窓‥‥?あっ!そうだ!」
 ダナエは急に駆け出した。
「どうしたんだよ、ダナエ!?」
 バドが呼びかけたが、ダナエは振り向きもせずに走って行ってしまった。私達は訳が分からないまま彼女のあとを追いかけた。
「まさかと思うあまりにすっかり失念していたわ、あの場所のことを!」
 ダナエは来た道を途中まで引き返し、そこから道を外れてヤブの中へと飛び込んだ。
 ヤブをかき分けて進み、ようやく追いついて見ると、ダナエは錆び付いた頑丈そうな扉の前に立っていた。私は服についた草木を払いながら彼女の隣に立った。
「ダナエ、この扉は?」
「瞑想の間の扉よ。聖なる炎の祭事の時、癒しの寺院の司祭はその身に宿る力を研ぎ澄ますために三日三晩ここに籠もるの。聖なる炎の儀は百年に一度しか行われないから、その間この部屋も百年間封印されているわ。」
「ここだけまだ探してなかったよな。てことは、ここにマチルダをさらった奴が逃げ込んでるんかもしれないってことか。」
 バドは護身用の形見のフライパンをかまえた。
「でもこの部屋はガトの中でもっとも神聖な場所なのよ。魔物が入れるはずは‥‥」
 ダナエは扉の取っ手に手を掛けた。扉は音もなく開いた。
「封印が解かれている!?」
「ビンゴだね。」
 ダナエとバドが並んで瞑想の間へと飛び込む。私も真珠姫をかばいながらそのあとに続き、さらに野次馬根性でついて来たニキータがのんびりと足を踏み入れた。
「マチルダ!」
「出てこい、魔物!未来の大魔法使いバド様が相手だ!」
 2人の声が薄暗い広間に響き渡る。しかしそこにあるのは静寂だけだ。
「暗くてよく見えないな。えいっ、ホーリースラッシュ!」
 光の精霊ウィル・オ・ウィスプの魔法によって、辺りが明るく照らし出された。
 同時に、小さな悲鳴が聞こえた。マチルダのものではない。それは魔物が発した悲鳴だった。バドが照明代わりに放った魔法が、偶然に潜んでいた魔物を捕らえたらしい。
「当たった!俺ってすげえっ!」
「感心するのは後回しだ。来るぞ!」
 私は真珠姫を下がらせ、片手剣を構えた。
 ダナエは真っ向から魔物を見据えた。
「マチルダはどこにいる!?彼女をいますぐ返せ!」
「それは出来ない相談だ。私はスプリガン。黒竜王アーウィン様の忠実なる僕にして、我が主の命を果たす者。それを阻む者は容赦せぬ。」
 マチルダをさらった魔物スプリガンは、その口から黒い霧のようなものを吐き出した。黒い霧は12体の不死系モンスタースケルトンとなって実体化した。
「ゲッ、卑怯だぞ!使い魔を呼ぶなんて〜!」
 バドはフライパンを振り回してわめいた。
「こっちも5人がかりにゃ。ちょうどいいハンデにゃ。」
 ニキータはのんきに言ったが、真珠姫は戦力としては数えられないので、実際には4人がかりの戦いだ。
 だが私は、ダナエやバドやニキータの戦闘能力を信頼している。彼らならこの程度のザコモンスターなどカンタンに蹴散らしてくれるだろう。
 そして私が思ったとおりに、ダナエ達はスプリガンが呼び出したスケルトン軍団をあっさりと一掃した。真珠姫を守っていた私の出る幕はほとんどなかった。
「はい、一丁上がりっと。なんだ、ヨワヨワじゃん。準備体操にもならないね。」
 エメラルドストームで最後のスケルトンを仕留めたバドは軽口を叩いたが、その時にはすでに新たなスケルトンが私達の前に迫っていた。
「鳳翼旋!乱撃骸貫!」
 ダナエは得意のヌンチャク技を余すところなく発揮し、連続技で一気にスケルトン達を殲滅した。
 しかし息をつく暇もなく、新手が現れる。
「スケルトンの叩き売りにゃ。よっぽど在庫が余ってるらしいにゃ。」
 ニキータは二段三角蹴りで目の前のスケルトンを倒したあと、続けざまに襲いかかって来た集団を虎王陣で吹き飛ばした。
 倒しても倒してもスケルトン達は次々に現れ、際限がない。
「くそ〜っ、ザル水だ!やってらんないよ〜!」
 ザルで水を汲む作業と言いたいらしいバドは、ヤケクソ気味にホーリースラッシュを乱発した。
「元を絶たなきゃダメだわ。スプリガンを倒さないと。」
 ダナエはモンスターの首領に挑みかかって行ったが、すぐにスケルトン軍団に阻まれてしまった。
「ドラゴンテイル!」
 私が放った片手剣技もスプリガンには届かなかった。こんなことなら弓矢を装備してくるんだったと後悔しても遅い。
「ねえ師匠、真珠姫がいないよ。」
 バドに言われてはじめて、私はついさっきまで背後にかばっていたはずの真珠姫の姿が消えていることに気付いた。慌てて辺りを見回すが、彼女の姿はどこにもない。
 血の気がサーっと引きかけたその時、
「マーベルストリーム!」
 遠距離直線上にダメージを及ぼす大剣技が、スケルトン軍団のバリケードを突き抜け、その後ろにいたスプリガンに見事命中した。
 これほど切れ味のいい大剣技を使うのは彼しかいない。
「エスカデ!」
 ダナエの顔がほころぶ。心強い助っ人の登場だ。
「喰らうがいい!魔物め!」
 エスカデは続く大地噴出剣で残りのスケルトン達を片付けた。
 これでスプリガンと私達の間を阻むものはない。
「真三段斬り!」
「アースインパクト!」
「乱れ雪月花!」
「鬼哭!」
「断崖喉輪地獄落とし!」
 私達5人の集中攻撃をこれでもかというほど浴びたスプリガンは、完膚無きまでに打ち負かされその場に倒れた。
「ア‥‥アーウィン様、お許しを‥‥」
 スプリガンの亡骸は霧のように消え失せた。
 エスカデは戦闘の決着がついたことを確認すると、大剣を鞘に収めた。
「ダナエ、これしきのザコ相手に苦戦するようでは僧兵総長失格だな。」
「まったくね。修行のやり直しだわ。とにかく助かったわ、エスカデ。でもよくここが分かったわね。」
「ああ。彼女が教えてくれた。」
 エスカデの後ろからひょっこり現れたのは真珠姫だった。
「真珠姫、無事だったのか。急に姿が見えなくなって心配した。」
「あ、ごめんなさい、お姉さま。でもお姉さま達が苦戦してるようだったから、助けを呼んで来なきゃと思ったの。道まで出たらちょうどこの人が通りがかって、剣をさしてたからきっと力になってくれると思って頼んでみたの。でも、ダナエのお友達だなんてちっとも知らなかった。とっても運がよかったみたいね。」
 真珠姫は無邪気に笑って言った。
「それよりダナエ、マチルダはどこだ?」
「そうだわ、マチルダ!」
 ダナエはヌンチャクを放り出すと、マチルダの名を呼びながら部屋の中を探し回った。
 マチルダは瞑想の間の奥にある小部屋のベッドの上にいた。眠っているだけで外傷はなく無事のようだった。
 私達はマチルダを癒しの寺院へと連れ帰った。
 やがてマチルダは目を覚まし、心配そうにのぞき込んでいるダナエの顔を見上げた。マチルダの部屋であるこの夢見の間いるのは、彼女とダナエ、エスカデ、そして私の四人だけだった。
「笑顔を見せて、ダナエ。私は大丈夫だから。」
「よかった、マチルダ‥‥。あなたが無事で本当によかった。」
 ダナエはマチルダのシワだらけ手を握りしめた。
「アーウィン‥‥悪魔め!俺は絶対に奴を許さん!」
「エスカデ‥‥」
 マチルダはエスカデを呼び寄せ、もう片方の手で彼の手を握った。
「ダナエ、エスカデ。私はアーウィンを恨んでもいなければ、今の自分を不幸だとも思っていないわ。私は今とても幸せなの。でも、ただ一つ悲しいのは、みんながお互いを解り合えていないということ。」
「解り合う?悪魔と解り合えというのか、マチルダ。俺には出来ない。君をこんな目に遭わせたアーウィンを、俺は‥‥」
 エスカデはマチルダの手をそっとはずすと、部屋から出て行った。
「マチルダ、私はあなたのことが大好きよ。エスカデやアーウィンと四人で遊んだ子供の頃は本当に楽しかったわ。でも‥‥私には今のあなたの考えが理解出来ない。どうして?こんなに歳をとって、死が近くまで訪れているのになぜあなたは幸せだなんて言えるの?」
 マチルダは聖母のような優しい微笑みでダナエを見つめた。
「あなたもいつか分かってくれると思うわ。だってあなたは、私の親友だもの。」
 マチルダは再び眠りについた。
 私はダナエを残し、部屋を出た。
 寺院の外では真珠姫達が待っていた。
「あ、お姉さま。さっきエスカデさんが出て行ったけれど、マチルダさんの具合は大丈夫?」
「もう心配ない。今はまた眠っている。ダナエがみんなにありがとうと伝えて欲しいと言っていた。」
「お礼なら形のあるものがいいにゃ。」
「何言ってんだよ。散々草ムシ獲ったんだからもう十分だろ。」
 バドは呆れ返ってニキータを見た。
「仕方ないにゃ。今回は無料奉仕にゃ。」
「俺なんか結局目的は果たせずじまいだよ。せっかくセルヴァと間近で会ったってのに‥‥ああ〜っ!」
 バドがまたしても叫んだ。
 風の王セルヴァが再度私達の前に現れた。
「マチルダを取り戻したようだね。しかしそれが、本当に彼女にとってよかったのかどうか。」
 どういう意味なのだろう。賢人は何を言いたいのか。マチルダはアーウィンの元へ連れ去られた方がよかったということなのか。
 私が賢人の言葉の意味を考えていると、バドがこの機を逃すまいとばかりに勢いよく前に出た。
「俺、バド!賢人に聞きたいことがあるんだ!俺、大魔法使いになりたいんだけど、どうすればいい!?」
「こんにちは、バド。君ならきっとなれる。今の気持ちを忘れないでいる限り。」
「うわあっ、ありがとう、セルヴァ!」
 セルヴァは私の方を見た。
「リーディス、旅を続けなさい。君の旅はやがて大きなものを生み出すだろう。未来を怖れることはない。人はもうすぐ自由になる。」
 セルヴァは現れた時と同じように、風のように消え去った。あとには賢人が残した不思議な言葉だけが残った。
 ニキータの言い草ではないが、やはり賢人の言うことは謎ばかりだ。以前、詩人ポキールからも理解し難い言葉を言われたことがある。
 ――君のイメージが力となり、君の言葉が世界を作る。君は信じるだけでいい。
「さて、行こうか。真珠姫を瑠璃の元へ送り届けなければならないしな。」
 考えていても仕方がない。私は私の思った道を進むだけなのだ。
「残す賢人はあと1人!オールボンだけだ!」
 バドは足取りも軽く先頭を歩いて行く。
「オールボンは奈落の主にゃ。奈落は生きてる者が行けるところじゃないにゃ。」
「あ‥‥そう言えばそうだった。うわ〜、どうすりゃいいんだ〜っ。」
 ニキータの指摘に、バドは頭を抱えた。
「頑張って、バド君。きっとなんとかなるわ。」
 真珠姫は励ましたが、こればかりは頑張ってなんとかなる問題ではない。
「さすがのオイラも奈落は商売圏外にゃ。死なずに奈落に行ける方法が見つかったらぜひ教えてほしいにゃ。」
「あ〜あ。奈落に行くなんてやっぱ無理ですよねえ、師匠。」
 バドはため息をついた。
 私は苦笑いした。
 しかし後日、その奈落へ落ちるハメになろうとは、その時の私は夢にも思わずにいた。




        
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