『必ず守れ』
ヴァンの助手席に座ったリノアは、開いた窓の外の流れる景色を見つめていた。不意に名を呼ばれ、運転席の方を振り向いた。
「なあに、スコール？」
「あ、いや‥‥」
呼び掛けておきながら、言葉に詰まったようにスコールは前方に視線を戻した。
「？」
リノアは不思議そうにスコールの横顔を見つめた。
「‥‥思ったよりも元気そうだなと思って。昨日はずいぶんナーバスになっていたようだから。」
リノアは一瞬きょとんした表情になったが、すぐに思い当たる節に苦笑した。
「そうね‥‥。確かにそうだったかも。自分で決めたこととは言え、いざとなるとやっぱり怖くて緊張していたみたい。」
「それはそうだろう。相手があのオダインじゃ、俺だって不安になる。」
スコールは無意識にハンドルを握る手に力を込めた。
スコールが運転するヴァンは、前夜からレウァール家へ泊り込んでいたリノアを乗せ、飛空艇ラグナロクとのランデブーポイントに向かっていた。彼らはそこで飛空艇に乗り込み、エスタへと渡る手筈になっている。
「別にオダイン博士に会うのが怖いんじゃないの。‥‥エキセントリックな人だとは思うけど。私が怖かったのは、自分の魔女としての力と向き合うこと。これまで努めて見ないように、感じないようにしてきた私の闇の部分だから。」
「そうか‥‥」
これから向かうエスタで、リノアはオダイン博士が所長を務める魔力科学研究機関オダイン研究所において、彼の研究に協力することになっていた。これは、リノア自身が進んで申し出たことだった。
「大丈夫か、リノア。何なら、今からでもやめても‥‥」
「ううん、平気よ。」
即座に首を振ったリノアだが、逆にスコールは余計に心配の度を深めたようだった。
その表情から彼の心を読み取り、リノアは苦笑した。
「強がっている訳じゃないのよ。本当に大丈夫。スコール達家族に勇気をもらったから。」
「俺達から？」
怪訝そうにするスコールに、リノアは微笑んで頷いた。
「夕べ、ヴィジョンを見たの。お姉ちゃん、また寝ぼけて力を暴走させちゃったみたいね。」
リノアはくすくすと笑った。
「エルオーネの接続か。一体誰の過去に入ったんだ？」
「あなたのお父さんよ。スコールが生まれる前の、まだ若い頃のラグナさんだった‥‥」
ラグナはわき目も振らず走っていた。
その後ろからは、キロスとウォードが追いかけて来る。キロスが何事か叫んでいるが、彼の耳には入っていない。
ウィンヒルのこじんまりとしたメインストリートを全力疾走で走り抜け、通りから少し外れた場所にある我が家へと飛び込んだ。
「レイン！レイン！レイーーーーーンっ！」
「えーーーいっ、やかましい！怪我人がおるんじゃ、静かにせんかーっ！」
２階の寝室へ駆け込んだ途端、ラグナの顔めがけて目覚し時計が飛んで来た。
まともにそれをくらったラグナは、デーンっとその場にひっくり返った。
「ちょっと先生。先生こそこれ以上怪我人を増やさないで下さいよ。ラグナさん、大丈夫かい？」
看護助手のローズ夫人は倒れたラグナの脇に屈み込みながら、ドクター・ヒースを軽く睨んだ。
「なんじゃ、レインの旦那か。例え誰であろうと、わしの患者の前で大騒ぎするヤツは許さんわい。」
白髪の老医師は腕組みをして、フンっと鼻を鳴らした。
数秒遅れて、キロスとウォードが現れた。
「申し訳ない、ドクター。レインのことなら心配ないと、言う前にこの男走り出してしまって。」
「‥‥」
肩で息をしながら、ウォードが何か身振りした。
「まあ、ラグナ君が真っ青になるのも無理はない、か。」
ウォードのゼスチャーに頷いたキロスは、床に倒れて目を回しているラグナを見下ろした。
「ほら、起きろラグナ君。君までドクターの世話になるつもりか。」
「‥‥イタタタ。うう、額がズキズキする‥‥」
意識を取り戻したラグナは、のろのろと上半身を起こした。
「すまないねえ、ラグナさん。村がこんな有様で怪我人に溢れてるもんだから、ドクターも気が立ってるだよ。」
ローズ夫人はラグナに手を貸して立ち上がらせた。
「怪我人‥‥あっ、そうだレイン！」
ラグナはベッドサイドに駆け寄った。
ベッドの上に横たわるレインは、静かな寝息を立てている。
「今は薬で眠っておるだけじゃ。怪我も大事ない。」
ドクター・ヒースは診察道具を片付け、立ち上がった。
「本当にありがとうございました、ドクター。」
レインの傍らに跪き、その手を握ったまま動かないラグナに代わってキロスは礼を述べた。
「目が覚めたらベッドから出てもかまわんが、ただし無理はさせるなよ。それから‥‥」
「他に何か？ドクター。」
一瞬考える風を見せたあと、ドクター・ヒースは曖昧に手を振った。
「まあ、いいわい。あとは本人から聞いてくれ。では、お大事にな。旦那の方には、あとでバンソーコーでも貼ってやれ。行くぞ、ローズ夫人。次はカシューじいさんのところかの。」
「先にクランベルさんのところですね。あそこは家の被害もひどかったようですし。」
「やれやれ。３年分の仕事を一日でやっておるようなものじゃな。」
ドクター・ヒースは頭を振りながら、ローズ夫人と共に寝室を出て行った。
「‥‥キロス、俺達がいない間に一体何があったんだ。まさか‥‥」
「ああ、君の考えているとおりだ。エスタの魔女アデルの後継者探し、少女狩りだ。」
「またエスタ兵が来たってのか。こんな田舎の村にどうして２度も‥‥」
ラグナはハッとした。いるはずの顔が、もう一つ見えない。
キロスとウォードを見上げた。２人の友人は沈痛な表情でラグナの視線を避けた。
「‥‥ラグナ君。エルオーネが、連れて行かれた。」
夜半過ぎ、ラグナは目を覚ました。
眠るレインのそばに付き添っていたのだが、いつの間にか自分も眠り込んでしまっていたらしい。肩には毛布がかけられていた。
ベッドを見ると、そこはもぬけの殻だった。慌てたラグナは室内を見回したが、レインの姿はどこにもない。
キロス達を叩き起こそうと立ち上がった時、窓の外に月明かりの下を歩いて行く人影を見つけた。
毛布をつかんだまま寝室を出たラグナは、階下へ駆け下りその人影を追って家の外へ飛び出した。
人影は村の外れにある墓地へとやって来た。墓のひとつの前で立ち止まり、その場に跪く。
「‥‥そんな格好で出歩いたら風邪引くぞ、レイン。」
寒々しい肩に、やわらかな毛布がかけられた。
しかし、レインは振り向きもせず、墓石と向き合ったままだった。
「怪我は大丈夫か？まだ痛むんじゃねえのか？」
「‥‥平気。腕を折っただけだし、あとは軽い打ち身や擦り傷だけだから。」
ラグナはレインの隣に並び、地面に腰を下ろした。
「エルの親父さんとおふくろさんの墓、か‥‥」
「‥‥ご両親にお詫びを言いに来たの。あなた方の大切な娘さんを、守ることが出来なかった。本当に‥‥ごめんなさい‥‥」
レインは無事な方の右手で顔を覆った。その指の間から、涙がこぼれ落ちた。
「レインのせいじゃねえ。レインはエルを守ろうと頑張った。こんなにボロボロになって、大怪我までして‥‥」
ラグナはレインの肩を抱き寄せた。
「悪いのは俺だ。肝心な時に家にいなかった。取材旅行だなんて、なれもしないジャーナリストの夢を追いかけてほっつき歩いていたせいだ。ホントに、本当にごめんな‥‥」
すると、レインは首を振った。
「私は、あなた達３人がいなくてよかったと思った。怪我人はたくさん出たけれど、死者が出なかったのは村にいたのが老人や女子供ばかりだったから。だからエスタ兵達も、本気で排除しようとはしなかった。あなたやキロス達のように、元軍人で武器を持って戦える人物が立ちはだかるとなれば、向こうも容赦はしなかったと思う。」
「俺達は蜂の巣にされ、結局はエルも奪われたってことか‥‥」
このどうにもならない現実に、ラグナは叫び出したい気持ちだった。それはレインも同じで、ラグナの胸に顔を埋めたまま、唇を噛んで嗚咽をこらえている。
小刻みに震えるレインの肩を抱きながら、ラグナはふと夜空を見上げた。
雲ひとつない空に、丸い月だけがぽっかりと浮かんでいる。彼の目には、その月がやけに寂しげに映った。自分達のもとから引き離され、ひとりぼっちになったエルオーネの姿と重なった。
「奪われたなら、取り戻すまで、だよな。」
「‥‥え？」
レインはラグナの顔を見上げた。
「ごめんな、レイン。帰って来たばかりなのに悪いんだけど、俺、また出かけてくるわ。」
「ラグナ？」
「ちょっとエスタまで、エルを迎えに行って来る。」
「！」
まるでこれから散歩に出かけるというような気軽さで、ラグナは言った。
驚いたレインは何か言おうとするが、言葉にならない。
「エルオーネは、今はもう俺達の娘だ。だから、この手に取り戻す。絶対に。」
「‥‥」
レインはラグナの顔を見つめた。月明かりの下ではっきり見えるその表情には、わずかな迷いもためらいもなかった。
「‥‥普通なら、そんな無謀な真似は止めるべき、なんでしょうね。」
レインは俯いて言った。
「レイン？」
「でも‥‥止めないわ。あの子のいない私達のこれからの人生なんて、もう考えられない。あなたの言うとおり、エルオーネは私達の娘なんだから。」
次に顔を上げた時、レインの目にはラグナと同じ固い決意の光が宿っていた。
「だから、お願い。絶対に取り戻して。私達の娘を。」
「ああ。必ず取り戻す。約束する。」
ラグナはレインを強く抱き締めた。
「‥‥そういう大事な話を、私達抜きで進めてもらっては困るな。」
暗がりから声がした。驚いて振り返ると、そこにはキロスとウォードが立っていた。
「ドタバタと表に飛び出して行ったから何事かと追いかけて来てみれば、とんでもないことになっているようだ。」
「‥‥」
ウォードがゼスチャーをして見せた。それに対してキロスは頷いた。
「もちろん、私達も一緒に行く。異存はないだろうな。」
「お、おいおい、待て待て。そんなカンタンに決めるなっての。これは大っ変なことなんだぞ。」
立ち上がったラグナは、慌てたように言った。
そんなラグナに、キロスは軽く片眉を吊り上げて見せた。
「至極簡単な決断だと思うがね。エルオーネが君の娘なら、我々にとってはかわいい姪っ子も同然だ。連れ去られた姪っ子を取り返しに行くのは、当然のことだろう。」
今度はウォードがそれに大きく頷いた。
「‥‥本当に、いいのか？」
ウォードがさらにゼスチャーを加え、それを見たキロスは肩をすくめた。
「君１人だけを行かせて、ただ待っているなんてそっちの方がよほど心臓に悪い。計り知れない方向音痴の君が、１人でエスタに辿り着けるとは到底思えないしな。」
キロスはいつものように皮肉めいた笑みを浮かべた。
「キロス‥‥ウォード‥‥。ありがとうな。本当に、本当にありがとう。」
ラグナは胸が詰まった。ついさっきまで、泣きたい気持ちだった。そして今は、違う意味でまた泣きたい。
「礼なら無事エルオーネを連れ戻したあとにしたまえ。その時は形ある物でお願いしようじゃないか。」
キロスは笑い含みにラグナの腕をぽんぽんと叩き、次いでウォードがバシンと勢いよく背中を叩いた。
レインは涙ぐみながら、その光景を見守っていた。
「本当なら、私も一緒に行きたかった。でも今回は、ここであなた達の帰りを２人で待ってるわね。」
「おうっ、待っててくれ、レイン。必ずエルを連れて‥‥って、２人？」
ラグナが振り返ると、レインは指で涙を拭って微笑んだ。そして、その手をそっと自分のお腹に当てた。
「そうか‥‥。ドクターが何か言いたそうにしていたのは、そのことだったのか。」
キロスは納得したように呟いた。
「え？ドクターがなんだって？」
ラグナはきょとんとしてキロスとレインを見比べた。
「‥‥」
ウォードは半ば呆れたようなため息をつきながら、身振りした。
「鈍いにもほどがある？どーいう意味だそりゃ。」
「ラグナ君は天然だからな。レイン、はっきり言わないと通じないぞ、この男には。」
キロスの言葉に、レインは苦笑して頷いた。
「ラグナ。もうすぐ我が家は４人家族になるのよ。」
「４人‥‥」
「あなたは二児のパパになるってこと。」
「‥‥‥‥‥‥‥え？え？えええ～～～～～っ！？」
裏返ったような声でラグナは叫んだ。周囲に眠る死者達まで起こしかねない大きさである。
「それホントか、レインっ！」
「ええ、本当よ。今日分かったことなの。私もびっくりしたわ。」
「そ、そっかあ～。俺達に二人目の子供が授かったのかあ‥‥」
感極まったように、ラグナは目を潤ませた。それを見たレインもまた、微笑みながら涙をこぼした。
「こんな時じゃなかったら、もっと大喜び出来るのにね‥‥」
「何言ってんだ、レイン。こんな時だからこそ大喜びしていいんだ。このことを聞いたら、エルが一番大喜びしたはずなんだからっ。」
目をごしごしとこすり、ラグナは笑った。
「ようしっ、エルに会ったら真っ先に伝えるぞ。弟か妹が出来たってなっ。」
「弟よ。エルオーネは弟を欲しがっていたから、きっと飛び上がって喜ぶはずだわ。」
「そっか、弟か～って、んん？えらくはっきり言い切るなあ、レイン。子供が出来たって、今日分かったばかりなんだろ？」
レインは自分のお腹を見下ろした。
「なんとなくだけど、分かるの。エルオーネは連れ去られて、夫と友人達は恐ろしい魔女の支配する国へ向かおうとしている。普通だったら怖くて震えが止まらない状況のはずなのに、今、私の体の奥からは勇気と力が沸いてくるのを感じる。それはきっと、この子がくれるものなんだと思う。だから、この子は男の子。絶対よ。」
確信を込めて、レインは言った。
「よっし、分かった！んじゃ、レインとまだ見ぬ息子に約束するっ。お前が生まれるその日までに、エルを連れて帰るって約束する！」
ラグナの力強い言葉に、レインは微笑んで頷いた。
「あなたなら、約束を必ず守ってくれるわね。」
「ああ、必ず！だから、待っててくれ、レイン。」
ラグナはレインに右手を差し伸べた。レインは無事な方の手でその手を取り、その暖かさを確かめるように優しく握り締めた。
そのまま２人の友人を振り返ったラグナは、軽く手で招いた。
キロスとウォードは２人のそばへ近付いた。
「その約束を果たすため、及ばずながら私達も力を貸そう。」
キロスはラグナとレインの手の上に、自分の手を置いた。
「‥‥」
ウォードもそれに頷き、次いで自分の大きな手を重ねた。
明るく輝く満月の下、４人と小さな一つの命が固い約束を交わした瞬間だった。
「俺が生まれる前に、そんなことがあったのか‥‥」
リノアの話を聞き終わったスコールは、初めて知る両親の過去に、じんわりとした暖かなものを感じながら呟いた。
「スコールもこのヴィジョンを見たことはなかったの？」
「ああ。俺が生まれた時のヴィジョンは前に見たことがあったけど、今の話は初めて聞いた。」
「そう‥‥」
助手席の背に深くもたれたリノアは、心の内に溢れる思いを噛みしめるように、静かに目を閉じた。
「‥‥ラグナさんもレインさんも、すごく頑張ったんだね。どんなに怖くてもどんなに辛くても決して諦めず、自分達の大切なものを守るために精一杯努力して、そして今のような素敵な人達になったんだね。」
「‥‥」
自分の両親のことだけに、照れくささが先行してスコールは何も言えずにいた。しかし、心に感じる思いはリノアのそれと同じだった。
「私はこのヴィジョンにすごく励まされたし、それと同時に思い出したの。」
「思い出した？」
スコールの問いかけに、目を開けたリノアはこの上なく優しい笑顔を返した。
「ラグナさん達が力を合わせて困難を乗り切ったのと同じように、私にも私を支えてくれる人達がいるんだってことを。私は、一人じゃない。みんなが、スコールがいてくれるから、私は前を向いて歩いて行ける。‥‥ありがとう、スコール。一緒にエスタへ行くと言ってくれて。」
「‥‥俺にはこんなことくらいしか出来ないからな。それに、約束しただろう。リノアが心に決めたことを叶えるために、俺は最後まで手伝うって。」
「うん‥‥ありがとう。」
リノアは深い感謝の意を込めて呟いた。
やがて前方に、青い海が見えてきた。海を見下ろす開けた草原に、流れるようなラインの赤い飛空艇が着陸している。海の青と、草の緑と、飛空艇の赤がとても目に鮮やかな光景だった。
飛空艇のそばにヴァンを横付けすると、待ち構えていたように乗降口から若い女性が駆け下りて来た。
「やっほー！いらっしゃーいっ！待ってたわよ～、２人ともっ。」
元気いっぱいの笑顔で、女性は窓からヴァンの中に顔を突っ込んだ。
「久しぶりーっ、スコール！元気してたっ！？ちょっと見ないうちにますます男前になったわね～っ。こないだエスタに来た時に会えなくて、すっごく残念だったのよっ。あたしもウォード君にくっついてって、ウィンヒルでの宴会に参加したかったわ～っ。」
「久しぶり、キーラ。会えて嬉しいのはこっちも同じなんだが、その前にちゃんと自己紹介した方がいいんじゃないのか。」
「おっと、いけない。つい興奮しちゃってっ。この子がリノアね。初めまして！あたしはオダイン研究所副所長のキーラ・ニールス・ザバック。研究所を代表してお二人を迎えに来ましたっ。よろしくね！」
キーラはリノアの手を取って握手すると、ぶんぶんと上下に振った。
「は、初めまして。」
「んん？おやおや～、ちょっと緊張気味かなリノアっ。うんうん、無理もないか。エスタ一のキワモノ、オダイン博士の巣くうオダ研に足を踏み入れるのに、二の足を踏まない人はいないわよね～。でも大丈夫よっ。あのマッドサイエンティストの手綱はこのキーラさんがしっかり握ってるから、決してリノアに嫌な思いをさせたり、辛い目に遭わせたりしないからねっ。」
キーラの個性にすっかり圧倒されたリノアは、ただこくこくと頷くばかりだった。
「ではでは、自己紹介も済んだところでとっとと出発するわよ～っ。さあさあ、ラグナロク３に乗って乗って！中にお茶菓子用意してるから、エスタに着くまでおしゃべりしながら一緒に食べよっ。あっと、２人を乗せてこれから戻るって官邸に知らせとかないとっ。」
言うだけ言うと、キーラは飛び跳ねるような軽い足取りで、飛空艇の中へと駆け戻って行った。
「賑やかな人だね‥‥」
ヴァンから降りたリノアは、嵐が去ったような気持ちでキーラが消えた乗降口を見た。
「まあな。彼女がウォードの奥さんだ。」
「ええっ！？あ、そういえばザバックって‥‥。でも彼女、お姉ちゃんと同じくらいの歳に見えたけど。」
「エルオーネより一つ下かな。２１歳だったはずだ。」
思わぬ歳の差カップルに、リノアは目を丸くした。
「少し変わってるけど、いい人だよ。彼女もリノアのことを支える一人になってくれると思う。」
「‥‥そうね。私も、そんな気がする。」
そう呟いて、リノアは嬉しそうに小さく笑った。
ヴァンの中から荷物を取り出したスコールは、それを肩に担ぐとリノアを振り返った。
「それじゃ、行こう、リノア。」
スコールはリノアに右手を差し伸べた。頷いたリノアはその手を取った。伝わる体温の暖かさに、安心感を覚えた。
手を繋いだ２人は、赤い飛空艇へ向かって歩き出した。
―END―
最後まで読んで下さってありがとうございます～っ。
最初に思いついたのは、ラグナさんの過去話のみだったのですが、それを回想風にしてスコール達の話を付け足して、最終的にはこんな感じのお話になりました。
一応、本編終了後という位置付けになっております。
最後の最後でオリキャラが出て来ましたが、すみませんっ、しかもウォードの若妻という大胆な設定です。
ウォードもキロスもいい歳なので、結婚ぐらいしていてもおかしくないと思うのですよね～。
で、どうせなのでウォードの嫁は思いっきり若くしてみたしだいです。おそらく相手が先にウォードに惚れて、猛烈アタックの末にゴールインしたのではないかと(笑)。
ちなみにキロスのお相手もすでに登場済みです。お題№２２のやはり過去話に出てきたオリキャラの美人秘書官がのちのシーゲル夫人、という脳内設定だったりします。こちらは職場結婚ですな。