『期限は５日』
その事件は、ユフィとレッドXIIIの些細なケンカが発端だった。
事件が起こった日の午後、飛空艇のラウンジには問題の二人と、クラウド、バレット、ヴィンセントの５人が集まっていた。
クラウドはパーティ軍資金の会計、バレットは昼寝、ヴィンセントは銃の手入れ、そしてユフィとレッドXIIIは茶菓子のウータイ煎餅をつまみながらだべっていた。
しばらくの間、部屋の中には穏やかな昼下がりの午後の時間が流れていた。しかしその平和も、突如として起こった激しい諍いの声によって破られた。
それまで楽しげにしゃべっていたはずのユフィとレッドXIIIが、口論を始めた。
言い合いの声を聞きつけたクラウドが、帳簿から顔を上げた時にはすでに、立ち上がった二人は臨戦態勢にあった。
「‥‥もう一度言ってみろっての、この赤色毛玉！」
「やれやれ、もう耳が遠いのかい。耳がよくなる補聴器マテリアでも捜して来たら？」
一触即発の雰囲気に気付いたヴィンセントも、銃身を磨く手を止めた。
「なんの騒ぎだ？」
「さあ‥‥。ユフィ、レッドXIII、一体どうしたん――」
「もーアッタマきた！くらえー！サンダガ！」
止める間もなく、ユフィは雷のマテリアを発動させた。
ユフィの攻撃を予期していたレッドXIIIは、軽い跳躍でひょいとかわしたが、代わりにソファでぐーぐーいびきをかいていたバレットを雷撃が直撃した。
「ぐぎゃぁぁああぁぁぁあっ！‥‥ぐふっ。」
断末魔の悲鳴のあと、バレットは戦闘不能になった。
「バレット！？」
「そっちがその気ならこっちだって容赦しないよ！ブリザガ！」
怒りに燃えた目でレッドXIIIは反撃の魔法を放ち、さらにそれを素早く避けたユフィは、得物の円月輪を投げ返した。
突然始まった戦闘に、クラウドは静止するのも忘れてしばし呆然と見守った。
「彼らを止めた方がよくはないか。」
倒れたバレットを部屋の隅に引きずり込み、レイズをかけながらヴィンセントは言った。
「あ、ああ、そうだった。ユフィ！レッドXIII！いい加減にしろ！ケンカなら外でやれ！」
クラウドは怒鳴ったが、頭に血が昇った二人には聞こえていない。
声が届かないとみたクラウドは、仕方なく二人の間に割って入った――
が、それがさらなる悲劇の始まりだった。
リミットゲージが満タンになったユフィとレッドXIIIは、ほとんど同時にリミットブレイク技を放った。
「生者必滅！」
「アースレイヴ！」
そして、ちょうどその時二人の対角線上に入ったクラウドが、彼らの技の餌食になったのは自明の理であったと言える。
「○※□×≒△§☆！！」
文字では表現出来ない叫び声が上がった。
「あ。」
「あ。」
「クラウド！？」
クラウドはばったりと倒れた。
ヴィンセントが駆け寄り、さすがに冷静さを取り戻したユフィとレッドXIIIも集まって来た。
「ヤッバ〜。思いっきり食らっちゃったよ、クラウド。生きてる？」
「ユフィが周りをよく見もしないで、力任せにバカみたいな技使うからだよ。」
「誰がバカみたいな技だって〜っ！レッドこそ手加減なしに技使っただろ〜っ。アンタ、アタシを殺す気！？」
「よく言うよっ。いきなり本気のサンダガを撃ってきたのは、どこのどちら様だろうね！」
再びケンカの続きが始まったが、さすがに両者とももう魔法を撃ったり、リミット技を仕掛けたりする気はないようだった。
「イテテテテ‥‥な、何が起こったんだあ？奇襲か？」
レイズで起き上がったバレットが、フラフラと寄って来た。
「ある意味奇襲だな。クラウド、大丈夫か？」
辛うじて戦闘不能を免れたクラウドは、ヴィンセントに肩を揺すられ、ぱちっと目を開けた。
ゆっくりと上半身を起こした彼は、傍らで手を貸そうとするヴィンセントには目もくれずに立ち上がると、キャンキャンと子犬のケンカを続けるユフィとレッドXIIIを見た。
「ケンカなら‥‥」
クラウドは得物の大剣を握り締めた。
「外でやれと‥‥」
戦闘態勢に入るクラウド。
「言ってるだろうがーーーっ！！」
クラウド、リミットブレイク。
「え。」
「え。」
「なんだあ？」
「いかん！」
「超究武神覇斬！」
――それから５分後、何も知らないティファがラウンジへと入って来た。
「ねえ、みんな、ちょっと相談したいことがあるんだけどいいかな‥‥って、えええ！？」
一歩足を踏み入れたティファが、中の惨状に仰天したのは無理もないことだった。
「‥‥で、一体全体何がどうなってこういうことになった訳？」
両腕を組み合わせたティファは、呆れ果てた様子で言った。
ラウンジの中は竜巻でも通り過ぎたかのような無残な状態で、さらにその場にいたクラウド以外の４人が戦闘不能という有様だった。
倒れた４人にレイズをかけ、ようやく話が出来るようになってからの事情聴取である。
「だからレッドが――」
「だからユフィが――」
「だからユフィとレッドXIIIが――」
「俺はただ昼寝を――」
「皆を止めることが出来なかったのは私の罪――」
一通り話を聞いたティファは片手を上げた。
「大体の事情は分かりました。でも、一つよく分からないのがトドメになったクラウドのリミット技よ。どうしてあなたまで技を使う必要があったの？二人のケンカは下火になっていたんだから、そこまでする必要はなかったと思うけれど。」
「あ、ああ、すまない‥‥」
クラウドはバツが悪そうに謝った。
「彼に責任はない。私が見たところ、あの時のクラウドはバーサク状態にあった。恐らく彼が付けていた強化マテリアのバーサクが、二人のリミット技を食らった弾みで発動してしまったのだろう。」
ヴィンセントが補足説明をし、ティファはようやく納得して頷いた。
「なるほど、不幸な事故が重なった結果という訳なのね。それにしても、派手にやってくれちゃったなあ。これで飛空艇に穴でも開いてたりしたら、今度はシドがリミットブレイク起こすところよ。」
「ホーント、不幸中のサイワイってヤツだよね〜。」
「ハイウインドが頑丈でよかったよね。」
「なに他人事みたいに言ってやがる。ちっとは反省しろっ。」
魔法とリミット技の巻き添えで二度も戦闘不能の目に遭ったバレットは、ユフィとレッドXIIIの頭を続けざまにぽかぽかと殴った。
「とりあえず、シド達がレベル上げから帰って来るまでに、部屋の中の残骸を片付けておかなきゃ。こんな足の踏み場もない状態じゃ、修理を始めることも出来ないしね。」
ティファの号令のもと、ラウンジ内の残骸の撤去作業が始まった。
作業を始めて１０分程経った頃、ユフィが残骸の中からあるものを見つけた。
「あれ？これって‥‥」
ユフィはひしゃげたソファの下から細長いものを引っ張り出した。それは、ピンク地に白の花柄模様が可愛らしい傘だった。
「それってエアリスの武器のアンブレラじゃない？」
レッドXIIIが初めに傘の正体に気付いた。
「あ〜、エアリスの最強武器か。」
「そういえば、今朝出かける前にエアリスが、アンブレラが見当たらないって捜してたわ。ここに置き忘れていたのね。」
ティファは思い出して言った。
「そかそか。じゃあエアリスが帰って来たら、アンブレラ見つかったよって教えてあげなきゃね。」
そう言って、ユフィがひょいとアンブレラを持ち上げた次の瞬間、アンブレラはその中央部分からぽっきりと半分に折れた。
「あ゛。」
その場にいた全員が固まった。数秒間、場は奇妙な沈黙に満たされた。
「折れたようだ。」
おかしな程冷静にヴィンセントは言った。
「ぎゃーーー！折れたーーーっ！？」
「ばっ、バカユフィ！なんてことするんだよ！」
レッドXIIIは毛を逆立てて叫んだ。
「んなこと言ったって、アタシただ持ち上げただけなのに〜っ！」
折れたアンブレラを捧げ持ったまま、ユフィはわたわたとその場を走り回った。
慌てふためくユフィの手から、クラウドはアンブレラを取り上げた。
「仮にも最強武器が持っただけで折れるはずがない。ユフィが見つけた時からすでに折れていたんだ。恐らく、さっきの騒動の最中に。」
「‥‥オイ、ちょっとまずいんじゃねえのか？その武器手に入れるのに、エアリスえらい苦労してたよな？」
バレットは無残に折れたアンブレラを見ながら言った。
「ええ。確か、ゴールドソーサーのシューティングコースターの景品だったのよね。あの時エアリス、連日連夜通い詰めてようやく取れたってものすごく喜んでたわ。」
ティファもその時のことを思い返して頷いた。
「うわ〜、ちょっとどころか激マズじゃんっ。どうするんだよ、エアリスの大切な武器ブっ壊しちゃってさ。」
「どうするもこうするも、元はといえばユフィが悪いんだろ。」
レッドXIIIはやれやれとため息をついた。
「むっ、何言ってんのさ。アタシにばっかり責任押し付けないでよねっ。大体レッドが――」
「分かったからやめろ、二人とも。」
再びケンカ腰になりかけるユフィとレッドXIIIを、クラウドは軽く睨んで黙らせた。
「壊れてしまったものは仕方ない。正直に起こったことを話して、俺とユフィとレッドXIIIの３人で謝るしかないだろう。」
「しょうがねえな。俺も一緒に謝ってやるよ。連帯責任てヤツだ。」
「私もともに頭を下げよう。」
バレットとヴィンセントは進んで名乗りを上げたが、その時ティファは、忘れていた大事なことを思い出した。
「‥‥ちょっと待って。事はそう簡単には済まないかも。」
「んん？どういうこった、ティファ。」
深刻そうな表情をするティファを、バレットはきょとんとして見た。
「この騒ぎですっかり忘れてしまってたんだけど、私、みんなに相談したいことがあったの。５日後のことでね。」
「５日後？」
クラウドは怪訝そうに繰り返した。
「誕生日が来るのよ。５日後に、エアリスの‥‥ね。」
「う゛。」
ティファ以外の全員が絶句した。
「たっだいまーーーっ！」
「戻りましたで〜。」
「ふぃー、疲れた疲れた。」
レベル上げに出かけていたエアリス、ケット・シー、シドの３人が飛空艇のブリッジに現れた。
「おかえりなさい。どうだった？」
３人を出迎えたティファは、努めて明るく声をかけた。
「バッチリだよ〜。レベルも上がったしマテリアのマスターレベルも上がったよ。ねっ。」
エアリスは満面の笑みを同行していた２人に向けた。
「そう、よかったね。お疲れ様。」
「ところで他のみんなは？ここにティファだけなんて珍しいね。」
「ああ、そのことなんだけど‥‥シド。」
「ん？なんでい。」
操縦席のクルーから引継ぎの連絡を受けていたシドは、ティファの呼びかけに振り向いた。
「さっきちょっとしたトラブルが起こったの。」
「トラブルぅ？」
ティファがラウンジ内で起こった出来事を説明すると、途端にシドの顔色が変わった。
「はあ〜っ！？ハイウインドの中で魔法の雨を降らせて、おまけにリミット技の応酬合戦だとーーー！？」
「部屋の中はぐちゃぐちゃになってしまったけど、幸い飛空艇自体に目立った傷は付いてないわ。今、バレットとヴィンセントがクルーの人達と一緒に修理を――」
ティファの話を最後まで聞かず、シドはブリッジから飛び出して行った。
「やれやれ、シドさん今にもリミットブレイク寸前でしたな。それで、張本人のお三方は今どうしてるんです？」
走り去るシドを見送りながら、ケット・シーは訊いた。
「クラウド達なら、きっとシドが烈火のごとく怒るだろうから、ほとぼりが冷めるまでしばらくレベル上げ兼軍資金稼ぎの旅に出て来るそうよ。」
「逃げるが勝ちっちゅうことですか〜。まあ、今回はそれで正解やったみたいですけどな。ほなボクも、シドさんをなだめつつ修理を手伝ってくるとしますわ。」
デブモーグリの頭の上で揺られながら、ケット・シーはシドのあとを追ってブリッジから出て行った。
「私達がちょっと留守してる間に大変だったみたいだね、ティファ。」
「え、ええ、まあね。あ、そうだ。本当なら今日の食事当番はユフィとレッドXIIIなんだけど、ご覧のとおり逃げ出しちゃっててまだ何も用意出来てないの。これから作るところなんだけど、よかったらエアリスにも手伝ってもらえるかな。帰ったばかりのところを悪いんだけど。」
「全然だいじょぶだよ。それじゃ、腕によりをかけてシドの好物でも作ろっか。少しでも機嫌が直るようにね。」
エアリスは笑って言うと、飛空艇のキッチンに向かって歩き出した。
彼女の後ろに付いて歩きながら、本当に機嫌を取るべき相手はシドではないのだが、とティファは心の中で呟いた。
「クラウド達、うまくやってくれるといいけど‥‥」
「ん？何か言った、ティファ？」
「えっ？ううん、なんでもないわ。」
振り向いたエアリスに笑って誤魔化したティファは、彼女に気付かれないようそっとため息をついた。
「えーーーっ、もうないってのかよ、オヤジっ！」
「本っっっ当に１本も残ってないの！全然っ！？」
「本当も何も、あのロッドはもともと世界に一つしかない品物なのだよ。」
突然押しかけて来た訪問者達に詰め寄られ、ゴールドソーサーの園長ディオは、園長席のデスクに座ったままやや困ったように答えた。
「つまり、エアリスが持っていたあの１本以外、もうこの世のどこにもない訳か‥‥」
クラウドは厳しい表情で呟いた。
「そのとおり。少年達の仲間であるあの少女が、並々ならぬ努力と根性でゲームを制して手に入れたあの１本だけが、唯一無二の品なのだよ。もともと、景品の謳い文句も『世界にひとつだけのレアロッド』だったのだからね。２本あったら広告に偽りありだろう。」
「ジャロに電話なんかしないから、こっそり隠してるヤツ１本譲ってよ〜。もちろんタダでとは言わないよっ。金はないけどクラウドとレッドが体で払うからさ〜。」
ユフィは猫なで声で頼み込み、その後ろからレッドXIIIが、「なに勝手なこと言ってるんだよっ。」と、どんっと背中に頭突きした。
「少年達には借りがあることだし、その君達のたっての頼みとあれば聞いてあげたいのは山々なのだが、本当にもうアンブレラはあの１本きりしかないのだよ。申し訳ないね。」
「うう〜‥‥」
ユフィは園長席のデスクに噛り付かんばかりにして悔しがった。
「どうしようか、クラウド。」
途方に暮れたようにレッドXIIIはクラウドを見たが、どうしようと訊きたいのは彼も同じだった。
よりによってエアリスの誕生日が目前に迫ったこの時期に、彼女の大切な武器を壊してしまったとあってはとても謝って済む問題ではない。
なんとか同じ品を手に入れられないかと、こうしてゴールドソーサーへやって来たクラウド達だったのだが、望みはあっけなく絶たれてしまった。
「何やら深い事情がありそうだな、少年。よかったら話してみたまえ。何か力になれるかもしれない。」
「実は‥‥」
クラウドは事の経緯を話した。
「ふむ、なるほど。それでそんなに必死にアンブレラを求めていたという訳か。」
ディオは腕を組んでしばし考え込んだ。
「先程も言ったように、２本目のアンブレラはない。となれば、残された手段は一つしかないと思うのだが。」
「と言うと？」
「アンブレラに代わるレア武器を少女に返すのだよ。アンブレラと同じか、あるいはそれ以上の価値があるものなら、少女も多少は大目にみてくれるかもしれない。」
「アンブレラ以上の武器、か。しかし、そんなものが都合よく存在するのか？」
クラウドは２人の仲間達に問いかけた。
「アンブレラに匹敵する武器というと、プリンセスガードくらいだろうけど、エアリスもう持ってるしね。そこそこいい武器はあらかた手に入れてるはずだよ。」
レッドXIIIはふるふると首を振った。
「う〜、やっぱアンブレラの代わりになるシロモノなんてないじゃん〜。」
ユフィは八方塞とばかりに頭を抱えた。
「諦めるのはまだ早いぞ、少年少女達よ。」
ずうんと重い空気を背負った彼らの様子を見て、ディオはフッと不敵な笑みを浮かべた。
「君達は私をただの脳筋マッチョマンだと思っていないかね。これでも私は、この娯楽の殿堂ゴールドソーサーの園長だよ。ここにはあらゆる層の人種が集まって来る。当然、それらの人々からもたらされる情報量もハンパなものではない。そして私は、その中に君達の助けになりそうな情報を持っているのだ。」
「それはつまり、アンブレラに匹敵する武器がまだあるということか！？」
「なになに！？教えて教えて！」
「早く言えってのっ、ムキムキオヤジ〜！」
クラウド達はディオに掴みかからんばかりの勢いで尋ねた。
「君達、エメラルドウェポンというレアモンスターのことを知っているかね。」
「ああ。このゴールドソーサーがあるコレル砂漠のどこかに潜んでいる奴だな。」
「そうだ。そして、そのモンスターがレアロッドを隠し持っているという話なのだよ。武器の名前は確か、エメロード・スカイ。」
「レアロッド、エメロード・スカイ‥‥」
「未だ誰も倒せずにいる最強部類のモンスターだから、その真偽を確かめることは出来ないのだが、これはいくつもの情報筋から聞いた話なのだ。信憑性は高いと思うぞ。」
「エメラルドウェポンか‥‥」
「もし、腕に自信があるなら挑戦してみるといい。そして首尾よく勝てたなら、エメラルドウェポンの体の一部を持ち帰ってくれないかね。我がコレクションルームの一品に加えたいのだよ。」
その時、彼の秘書がやって来て運営会議が始まる旨を告げた。
ディオは園長席から立ち上がった。
「それでは私はこれで失礼するが、少年達の健闘を心から祈っているよ。」
ディオが出て行き、クラウド達も追い立てられるようにして外へ出た。
イーストブランチにあるラウンドスクエア内の展望公園へとやって来た３人は、見晴らしのよい高台に置かれたウッドベンチにひとまず落ち着いた。
「ねえねえ、さっきの話どう思う？」
ベンチに腰かけるなり、ユフィは他の２人に訊いた。
「強いモンスターがお宝武器を持ってるってのはよくある話だからね。可能性はあると思うよ。でも、それがよりにもよってエメラルドウェポンとはなあ。」
レッドXIIIは眉間にしわを寄せた。
「あ〜、思い出した。エメラルドウェポンって、前に一度偶然遭遇しちゃってコテンパンにやられた相手だったっけ。アタシはその時のパーティメンバーには入ってなかったけどさ。」
「確か、クラウドとバレットとティファの３人だったよね。あの時、オイラとエアリスとケット・シーで、砂漠の真ん中で戦闘不能になった３人を回収しに行ったんだよ。」
「あの時は手も足も出なかったな。１ターンでものの見事に薙ぎ倒された。」
その時のことを思い出してか、クラウドは苦々しい表情になった。
「うへ〜。そんな相手に勝てんのかよ〜。また瞬殺されちゃうのがオチじゃないの？」
「あの時は連戦途中で消耗し切っていたし、何よりレベル差があり過ぎた。今の俺達ならやってやれないことはないと思う。」
３人はしばし考え込んだ。
「‥‥とりあえず、やるだけやってみるっきゃないか。このまま手ぶらで帰るワケにはいかないしねっ。」
「エアリスがアンブレラのために費やした時間と労力を考えたら、オイラ達がこれしきの相手でためらってる場合じゃないよね。」
「ああ。なんとしてもエメラルドウェポンを倒して、エメロード・スカイを手に入れよう。エアリスへの最高の誕生日プレゼントにするんだ。」
クラウドは右手を差し出した。その上にユフィが右手を重ね、さらにその上にレッドXIIIが右前足を重ねた。
「打倒！エメラルドウェポン！」
「オーーーーーっ！！」
「おい、ティファ。」
小声で名前を呼ばれて振り返ると、バレットが物陰から手招きしていた。その隣りにはヴィンセントもいる。
頷いたティファは、辺りを注意深く見回してから２人に近付いた。
「クラウド達からなんか連絡あったか？」
「いいえ、ないわ。音沙汰なしよ。」
ティファが首を振って見せると、バレットとヴィンセントは難しい表情で顔を見合わせた。
「あれからもう２日だぜ？何やってんだ、あいつら。」
「いくらなんでも遅すぎる。何かあったのではないか。」
最後にクラウド達から連絡があったのは、彼らがアンブレラを求めて飛空艇を降りたその日の夜だった。
アンブレラを手に入れられなかった代わりに、エメラルドウェポンが持っているというレアロッドを手に入れてくる――そう連絡があってから、すでに２日が過ぎていた。
バレットとヴィンセントの心配は当然で、ティファにしても彼らの帰りが遅いことを気にしていなかった訳ではなかった。
「あいつらエメラルドウェポンにやられて、砂漠のどっかで戦闘不能になってんじゃねえのか？前の時みたいによ。」
「こちらから連絡はつかないのか？」
「何度もやっているんだけど、クラウド達のＰＨＳに繋がらないのよ。受信状態の悪い場所にいるのか、故障したのか‥‥」
向こうからの連絡もない。こちらからも繋がらない。となれば、やはり悪い予想が頭をよぎる。
「捜索隊を出した方がいいだろうな。それも早急に。」
ヴィンセントが出した結論に、他の２人も同感の意を込めて頷いた。
「それじゃ、私達３人で――」
そう言いかけたティファを、ヴィンセントは制した。
「いや、君は残った方がいい、ティファ。エアリス達もそろそろ不審に思う頃だろう。なんとかうまく誤魔化して、時間を稼いでくれ。クラウド達は私とバレットで捜しに行く。」
クラウド達が家出よろしく飛空艇を出た本当の経緯について、エアリスはもとより、その時彼女と同じくあの場にいなかったシドとケット･シーにも伏せていた。
あとで事情が知れた時、自分だけが知らなかったとエアリスが疎外感を抱くことを危惧したためである。
「分かったわ。２人にまかせる。だけど、なるべく急いでね。エアリスの誕生日はもう３日後なんだから。」
支度もそこそこに、ヴィンセントとバレットはバギーカーに乗って出かけて行った。
「ティファ。」
２人を見送っていたティファは、後ろから呼びかけられて飛び上がらんばかりに驚いた。が、なんとか動揺を押し隠し、何気ない素振りで振り返った。
声をかけてきたのはエアリスだった。
「今出て行ったのって、バレットとヴィンセント？どこへ出かけたの？」
「ちょっと買い出しに行くついでに、軽くレベル上げしてくるって。夕飯はいらないそうよ。」
エアリスは意外そうに目を見開いた。
「へ〜、バレットとヴィンセントの２人だなんて、珍しい組み合わせだね。ずっと前に、その２人とシドの３人でレベル上げに行った時、誰も回復マテリアを付けてなくて危うく全滅しかけたことがあったらしいけど、だいじょぶかな。」
「ああ、そういえばそんなこともあったっけ。でも、さすがにもうそんなケアレスミスはしないんじゃないかな。あ、そ、そうだエアリス、申し訳ないんだけど、今日もまた夕飯作りを手伝ってもらえる？当番のヴィンセントが出かけちゃったから。材料はもう揃えてあるのっ。」
ティファはくるりとエアリスの向きを変え、ぐいぐいと背中を押した。
「了解了解っ。それにしてもみんな、実は食事当番から逃げるためにレベル上げと称して出かけてるんじゃないかって気がしてきたよ。」
笑い含みに言ったエアリスは、ティファに押されるがままに歩き出した。
「あはは、ホントそうかもね〜‥‥」
乾いた笑い声で応えたティファは、やはりそっとため息をついた。
「クッ、どこへ行った‥‥！」
「もきーーっ！まーた逃げられたーーーっっ！」
「またかい。もうカンベンしてよ〜。」
熱い日差しが照り付ける熱砂の砂漠。そのど真ん中で、クラウド達は右往左往していた。
ゴールドソーサー園長ディオにエメラルドウェポンのことを聞いてからすでに４日。未だに彼らはコレル砂漠にいた。
この砂漠のどこかにいるエメラルドウェポンを見つけ出し、これを全力で叩く。かかっても１日で終わる仕事だと思っていたのだが、それがとんでもなく甘い考えだったことを、今の彼らは嫌というほど思い知らされていた。
まず、エメラルドウェポンを捜すだけで半日が潰れた。ようやくエメラルドウェポンと遭遇し、戦闘開始。久々に歯応えのある相手ではあったが、これなら倒せると３人は確信した。
事実、もう一息で倒せるというところまで追い詰めたその矢先――突然、エメラルドウェポンが逃走した。
呆気に取られたクラウド達だったが、ともかくもエメラルドウェポンの行方を追った。そしてさらに半日後、再遭遇してみると相手はものの見事に全快し、ピンピンしていたのである。
以来、戦闘、逃走、追走、戦闘の無限ループ地獄の繰り返しだった。
３日目にはバレットとヴィンセントが合流したが、事態の進展はなく未だエメラルドウェポンの息の根を止めるに至っていない。
「なんなんだ、あのモンスターは！やる気あんのかーーっ！」
バレットは砂漠の地平線に向かって吠えた。
「完全なイタチごっこだな。おちょくられているような気さえしてきた。」
いつも冷静なヴィンセントも、さすがに苛立ちを募らせた様子で白く輝く砂面を見据えた。
「もう一息ってところでいっつも逃げられるーっ！こんなんじゃいつまで経っても倒せないじゃんっ。」
ユフィはふて寝するように砂の上に大の字に寝転がった。他の仲間達も疲れ果てた様子で、面々にその場に腰を下ろしていった。
「そろそろアイテムも底を尽きかけてきたよ。一度ゴールドソーサーまで補充に戻るかい？」
レッドXIIIの言葉にクラウドは首を振った。
「いや、そんな余裕はない。俺達に残された時間はあとわずかだ。期限は明日なんだぞ。」
「期限‥‥？ああっ、そうか、明日がエアリスの誕生日だっ。」
「そーだったそーだった。鬼ごっこに必死になってて、本来の目的を忘れてかけてたよ。」
本気でそのことが頭になかったらしいユフィは、ぺんっと自分のおでこを叩いた。
「こうなったら飛空艇の居残り組にも協力を仰ぐべきだろう。全員の力を合わせて、エメラルドウェポンが逃げ出す前に一気にカタを付けるのだ。」
ヴィンセントの提案にバレットも大きく頷いた。
「賛成だぜ。あとは力押しの短期決戦に持ち込むしかねえ。」
仲間達はクラウドに注目した。
両腕を組み合わせ、俯き加減で考え込んでいたクラウドは、やがて決心したように顔を上げた。
「‥‥そうだな。それに賭けるしかなさそうだ。だが、全員といってもエアリスを呼ぶ訳にはいかない。シドとケット・シーとティファ‥‥いや、ティファには残ってもらった方がいいな。さすがにエアリスを１人には出来ない。」
こうして、シドとケット・シーの２人を呼び寄せることで話は決まった。
クラウド達が持っていたＰＨＳは砂漠の砂で使用不能になっていたため、バレットとヴィンセントが持って来たＰＨＳで飛空艇にいるティファと連絡を取った。
『シド達まで出て行ってしまったら、いくらなんでもエアリスだって怪しみ出すわ。今でもすでになんだかおかしいと感じてるはずよ。これ以上どう誤魔化せって言うのよ。もう限界よっ。』
受話器の向こうのティファは今にも泣きそうな声で訴えたが、なんとかもうしばらく耐えてくれと説き伏せ、シドとケット・シーの出動を要請した。
「いざとなったらスリプルで眠らせるって手もあるよっ。とにかくファイトっ、ティファ！」
横から叫んだユフィの無責任な応援とともに、通話を終了した。
翌早朝、呼び寄せたシドとケット･シーが３台目のバギーカーに乗って現れた。
「みんなゾロゾロお出かけして何してるんやろと思うてたら、こんな事情があったなんてビックリですわ。早めに言うてくれたらよろしかったのに。」
「まったくでい。最初から俺様達を呼んでおけば、こんな無駄な時間を浪費せずに済んでらあ。」
合流した２人は早速不満をぶちまけた。
「秘密にしていたのは悪かった。言いたいことはあとで聞く。とにかく今はエメラルドウェポンを倒すことが先決だ。力を貸してくれ。」
シドとケット・シーは顔を見合わせ、そして肩をすくめた。
「んで、逃げ回ってやがる往生際の悪いモンスターはどこにいるんでい。」
「レッドXIIIとユフィが追跡している。この地帯に追い込む手筈になって――」
「おいでなすったようだぜ、クラウド！」
バレットが右腕の銃で前方を指して叫んだ。遠くから砂煙が近付いて来るのが見える。エメラルドウェポンとその後方にはバギーカーが続いていた。
「この一戦で必ず奴を仕留める。絶対に逃がすな！いいな！」
言い放ったクラウドは、近付いて来るウェポンに向かって大剣を構えた。
「よっしゃ〜っ、今こそ来い来いラッキーガール！フィーバータイム、カモーーーン！」
先陣を切ってケット・シーがリミットブレイク。どこからともなく取り出したスロットが回り出し、ハートマークのドラムが３つ揃った。ラッキーガール発動により、全員の攻撃力が上がった。
「いいぞ、黒猫！次は俺様でい！リミットブレイク、ハイウインド！‥‥は使えねえから、ドラゴンダイヴ！」
「うおおーっ！続けて行くぜ！カタストロフィ！」
「コスモメモリー！」
「森羅万象！」
「カオス！」
「超究武神覇斬！」
各々のリミット技をこれでもかという程にぶつけた。普通これだけのリミット技を連続して食らえば、大抵のモンスターはひとたまりもなく倒れるはずなのだが、エメラルドウェポンは依然として健在だった。
「ムダにＨＰの高いやっちゃな〜。何食うてたらこんなに育つんや。」
「ほとんど嫌がらせとしか思えねえ頑丈さでい。」
初めてエメラルドウェポンと戦うケット・シーとシドは、呆れたように言った。
「攻撃の手を緩めるな！ＭＰ、アイテム惜しまず使え！回復は後回しにしてとにかく全力で攻撃だ！」
クラウドはアルテマウェポンで連続斬り、ユフィは十字手裏剣を投げ、レッドXIIIは炎マテリアのファイガを魔法乱れ撃ち、ヴィンセントは大地マテリアのクエイガと隕石マテリアのコメテオをＷ魔法撃ち、バレットは敵の技マテリアのシャドウフレアを放ち、ケット・シーは召喚マテリアのバハムート改とバハムート零式をＷ召喚、シドはボムの右腕と南極の風をＷアイテム使用した。
「まずいよ！そろそろ逃げそうだっ！」
タイムキーパー役として戦闘時間を計っていたレッドXIIIが、焦りの声を上げた。
「クソっ！もうちょいだ！踏ん張れ！ひたすら撃ちまくれ殴り続けろーっ！」
「このーっ、食らえホークアイ！卍手裏剣！ライジングサン！」
「頼むわ、アレクサンダー！ハーデス！ナイツオブラウンド！」
「グラビガ！バイオガ！ブレイク！」
「シィーット！やべーぞっ、逃げやがる！」
「来た！リミット技再使用可能！これで最後だ！超究武神覇斬！！！」
クラウド、再リミットブレイク。
エメラルドウェポンは倒された。
「た‥‥」
「た‥‥」
「た‥‥」
「倒したーーーーーっ！！」
「やった！ばんざーーーいっ！」
「は〜〜〜〜〜。」
長々と息を吐きながら、バレットはその場に座り込んだ。
「つ、疲れた‥‥っ」
「もう二度と戦いたくない相手だな‥‥」
ヴィンセントもゆっくりと片膝をついた。
「でもさ、すんごい熱い戦いだったよね〜。最終決戦並に盛り上がったかもだよっ。」
「うんうん、時間制限がある分白熱したねっ。」
ユフィとレッドXIIIは達成感に満ちた笑顔で、砂漠の上に寝転がった。
「そりゃよかったな。次にやるときゃガキ共だけでやってくれい。俺様はもうパスだっ。」
どすんと腰を降ろしたシドは、そのまま大きく伸びをするようにして大の字になった。
「皆さん、見て下さい。ボクらの目的はこれちゃいますか〜。」
ケット・シーが乗ったデブモーグリが、砂の中から細長い棒のようなものを拾い上げた。翠色に輝くそれは、一本のロッドだった。
「これだ‥‥レアロッド、エメロード・スカイ。」
デブモーグリからそれを受け取ったクラウドは、目的を遂げた事への安堵感に息をついた。
「ホンマよかったですわ〜。これで５日間に渡る鬼ごっこもようやく終了ですな。」
「ああ、みんな本当によくやってくれた。こうして無事手に入れることが出来たのは、みんなが力を合わせて頑張ってくれたおか‥‥！？」
クラウドは殺気を感じて振り返った。
突如、砂漠の砂を突き破るようにして砂中から巨大砂ミミズが姿を現した。
「げっ。」
「げっ。」
「なっ。」
「うごっ。」
「ランドウォームだ！」
「わあっ、ちょっとタンマー！アタシ達今吹けば飛ぶよなＨＰなんだけどーーーっ！」
ユフィが叫んだとおり、エメラルドウェポンに回復無視の短期決戦を挑んだ彼らは、今全員が瀕死状態にあった。例え相手が雑魚であろうと、その一撃で戦闘不能に陥るのは確実である。
それを相手が見抜いたのかは定かではないが、意気揚々とランドウォームが襲いかかろうとしたその刹那、一陣の風ともに黒い影が両者の間に踊り出た。
長い黒髪をなびかせたティファだった。
「リミットブレイク、ファイナルヘヴン！」
電光石火のリミット技で、ティファはランドウォームを倒した。
「ティ、ティファ‥‥？」
「ティファ、お前っ、なんでここに！？」
呼吸を整えたティファは、そろそろと振り向いた。なんとも気まずそうな苦笑いを浮かべると、ぱんっと顔の前で両手を合わせた。
「‥‥ゴメンっ、みんな！」
そう言って謝った彼女の視線は、クラウド達の後ろに向いていた。
彼らは一斉に振り返った。
「リミットブレイク、大いなる福音！」
次の瞬間、全員のＨＰとＭＰが全快した。
「気を抜いちゃダメだよ。遠足は家に帰り着くまでが遠足なんだからね。」
砂丘の上に立ったエアリスは、にっこりと仲間達に笑いかけた。
「エ、エアリス‥‥」
「事情はぜーんぶティファから聞かせてもらったよ。ここ数日、みんなの行動がおかしいとは思ってたけど、それがまさかこんなことだったとはね〜。ビックリだよ。」
「‥‥」
クラウド達はちらりとティファを見た。
「だから言ったじゃない。もうこれ以上誤魔化せないってっ。」
仲間達の物言いたげな視線に、開き直ったティファはやや怒ったように言った。
「やっぱり５日っちゅうのは、ちょーっと時間がかかりすぎたみたいですな〜。」
ケット･シーは苦笑しながら自分の頭をメガホンでぽんぽんと叩いた。
「そうみたいだな。」
クラウドは観念したように息を吐き、エアリスの前に進み出た。
「まず最初に謝らせてくれ。事故とはいえ、エアリスが苦労して手に入れたアンブレラを壊してしまった。本当にすまない。」
「一番悪いのはつまんないことでケンカを始めたオイラ達だよ。ごめんよ、エアリス。」
「ゴメンね、エアリスっ。ホンット〜〜にゴメン！潜水艦よりも深く反省してるよっ。」
「その場に居合わせておきながら、騒ぎを止められなかった私も同罪だ。申し訳ない。」
「こいつらも悪気があった訳じゃねえが、やっちまったことはやっちまったことだ。俺からもこのとおりだ。すまねえ、エアリス。」
仲間達から次々と頭を下げられたエアリスは、慌てたように両手を振った。
「待って待ってっ。大きな誤解があるみたいだから、まずはそれを解かせて。」
「誤解？」
「そもそもの発端は、これが原因なんだよね？」
きょとんとするクラウド達に、エアリスはあるものを差し出した。そして、それを目にした彼らは唖然とした。
それはアンブレラだった。しかもそのアンブレラは、折れるどころか傷一つ付いていなかった。
「こ、このアンブレラはどこから‥‥」
「もちろん、ゴールドソーサーの景品で取ったアンブレラだよ。みんなが壊したと思ったアンブレラは、アンブレラ・レプリカの方だったんだよ。」
「アンブレラ‥‥レプリカ？」
「うん。それも同じシューティングコースターの景品でもらえるいわゆる残念賞なの。毎回何十本ももらっちゃって荷物になってたから、いつもその場でジャンク屋に売り払ってたんだ。折れたアンブレラ・レプリカは本物のアンブレラが取れた日に、記念に一本だけ持ち帰って来たものだったんだよ。」
エアリスの説明を聞いたクラウド達は、皆一様に押し黙った。そして、
「は〜〜〜〜〜〜‥‥」
長い長いため息とともに、力が抜けたように次々にその場に座り込んでいった。
「つまり、あの時ラウンジにあったのはレプリカで、それが例の騒ぎで折れたってことなのか。そうすると、本物のアンブレラは一体どこにあったんだ？」
「チョコ房に置き忘れてたみたい。クルーの人が見つけて、あとで届けてくれたよ。」
「‥‥‥‥はあ。」
精も根も尽き果てた様子のクラウド達に、今度はエアリスが申し訳なさそうな表情になった。
「ごめんね。まさかアンブレラのせいでこんなことになってるとは夢にも思わなくて‥‥」
「いや‥‥はじめにアンブレラ‥‥レプリカが折れた時、正直に話さなかった俺達が悪いんだ。」
「そうだね。エアリスが謝ることなんてないよ。オイラ達の自業自得さ。」
「うんうん、ウソやゴマカシはいかんってことだよね〜。」
レッドXIIIとユフィは力なく笑って見せた。
「だけど本物のアンブレラが無事なら、このロッドはもう用無しの代物になっちまったってことだよな。」
バレットはクラウドの手に握られたままのエメロード・スカイを見た。
「そうだな。いくらレアロッドとは言え、同じような物を何本も持っていても仕方がない。」
ヴィンセントは頷いて言った。
「そや、せっかくやからゴールドソーサーの園長にでも売り付けたらどないです？レアモンスターが持ってたレアロッドなんやから、あの園長ならそこそこいい値段で買うてくれると思いまっせ。」
ケット・シーの提案に、ティファも賛成した。
「その方がよさそうね。ごめんね、エアリス。夜までには他の誕生日プレゼントを用意するから、もう少し待っててね。」
「そんじゃ、とっととハイウインドに戻るとしようぜ。風呂に入ってさっぱりして、そんで姉ちゃんの誕生日の仕切り直しでい。」
シドが立ち上がり、それに習うようにして体中についた砂を払いながら立ち上がった彼らは、バギーカーを止めた場所へ向かって歩き出した。
「どうしたんだ、エアリス？」
なぜか動こうとしないエアリスに気付いて、クラウドは言った。他の仲間達も振り返った。
「‥‥誕生日プレゼントがもらえるなら、私ひとつだけどうしても欲しい物があるんだけどな。」
「お、プレゼントのリクエストか。いいぜ、遠慮せずなんでも言ってくれよなっ。」
どんと来いという風に、バレットは自分の胸を叩いて見せた。
「エアリスには何日間もウソついてだまして来ちゃったしね〜。お詫びにどんなリクエストにもお応えしちゃうよっ。」
「どんな高価な物だって構わないよ。お金はないけどユフィが体で払うってさ。」
「それで、エアリスの欲しい物ってなんなんだ？」
飽きもせず子犬のケンカを始めようとするユフィとレッドXIIIを引き離しながら、クラウドは訊いた。
「私が欲しい物はね‥‥これ！」
クラウドのもとへ駆け寄ったエアリスは、ぱっと彼の手からエメロード・スカイを取り上げた。
「え？だけどエアリス、それは‥‥」
「このロッドは、みんなが一生懸命汗と涙と努力と根性の５日間をかけて手に入れてくれたものだよね。どんなに高性能な武器防具だろうと、どんなに希少なマテリアだろうと、これに勝る誕生日プレゼントはこの世のどこにも存在しないよ。」
ロッドをぎゅっと抱きしめたエアリスは、心の底からの喜びに溢れた笑顔を仲間達に向けた。
「本当にありがとう、みんな！」
「エアリス‥‥」
戸惑ったようにエアリスを見返すクラウドだったが、やがて表情を和ませた。他の仲間達も嬉しそうに、あるいは照れ臭そうに笑っている。
「‥‥どういたしまして。それじゃ改めて、誕生日おめでとう、エアリス。」
「おめでとう！」
「ありがとう！あ、そうだっ、みんなが倒したこのモンスターの牙とか爪を、ディオさんのところへ持って行って売り付けよっか。それでそのお金で、今日はゴールドソーサーでパーッとやろう！」
「賛成〜！あのマニアオヤジなら多少のぼったくり値段でも買い取ってくれるよっ。」
「って、ハナからぼったくる気マンマンかよっ。」
「まあ、ゴールドソーサーには常日頃から相当のギルを注ぎ込んでますしな〜。」
「たまにはちっとばかし取り返したって、バチは当たらねえだろよ。」
「でもいいのかしら。レアロッドの情報を教えてくれたのはディオ園長なのに。」
「いいんじゃないかな。園長本人もエメラルドウェポンを倒したら、その一部を持ち帰って来てくれって言ってたしね。」
「園長は彼のマニア魂に付け込まれる訳だな。気の毒に。」
早速彼らはわらわらとエメラルドウェポンに群がり、戦利品の持ち帰り準備を始めた。
仲間達を手伝おうと足を踏み出したエアリスは、ふと何かに気付いたように足を止めた。
「そっか‥‥」
「エアリス？」
その様子に気付いて、クラウドは声をかけた。
「プレゼントなら‥‥最高のプレゼントなら、もうとっくの昔にもらっていたんだよね。」
呟いたエアリスは、顔に？マークが浮かぶクラウドに笑いかけた。
「クラウドやみんなと出会えたこと。それが、私が今までにもらった最高で最大で最強のプレゼントだよ。」
エアリスの笑顔を見つめていたクラウドは、やがて自身も笑顔を返して頷いた。
手の中の翠色のロッドを握り締めたエアリスは、仲間達の輪の中へと飛び込んで行った。
―END―
最後まで読んで頂いてありがとうございます！
エアリス誕生日物ＳＳ第二弾であります〜。
が、オールキャラを目指して書いていたらえらく長めになってしまい、さらにはエア誕ネタなのに肝心のエアリスの出番は少なめだったという罠。
ちなみにエメロード・スカイという武器は創作です。さらにコレル砂漠に出現するのはエメラルドではなくダイヤウェポンだったりするのですが、まあ細かいことは気にしないでくだｓ